イナホの収穫ロボットがオランダのトマト現場を変革――試験で収量効率が大幅改善
農業ロボットを手掛けるInaho(イナホ)が、オランダのハウス栽培で試験運用を進めているトマト収穫ロボットが、実用性と効率面で大きな成果を示しました。2023年5月から試験を開始し、協力生産者がロボットの性能に対して費用を支払い始めたのは2023年11月から。特に2024年6〜7月の試験では、前年に比べて収穫速度が2倍になったと報告されています。
何が変わったのか:技術的改良のポイント
- プロセッサ(チップ)、カメラ、AIソフトウェアの改善により処理速度と認識精度が向上し、収穫スピードが2倍に
- 植物を誤って摘む(未熟果の摘果)や落下によるロスが減少し、良品率が向上
- ロボット本体を約17%スリム化し、ハウスの通路での取り回し性と植物接触時のダメージリスクを低減
これらの改善は単独ではなく、カメラ→AI→機構設計の一連のアップデートが組み合わさって実現した点が重要です。画像認識の精度向上は、特に“スナックトマト”(バラ売りのチェリートマト等)のような小さな果実を正確に検出・把持する場面で効果を発揮しています。
栽培側の工夫も効率化に寄与
ロボット単体の進化だけでなく、栽培側の仕立てや品種設計がロボットの効率を引き上げています。報告されたポイントは次の通りです。
- Dormaplumのような房形状(トラス)がロボットの果実検出・把持を容易にし、精度を高める
- 果実のトラスに長く留まれる性質(収穫適期がやや長い)があると、同一トラスの一回での摘み取りが可能になり往復回数が減る
- 選抜育種やトラス剪定による果実重量のわずかな増加が、時間当たりのkg収量を増やす効果を持つ
- 従来の「ねじり採り」を代替するQliprシステムにより、トラスが茎前に明確に位置するようになり、ロボットのアクセス性と速度が向上
ビジネスモデル:RaaS(Robot-as-a-Service)で導入障壁を下げる
Inahoはロボットを「RaaS(サービスとしてのロボット)」で提供しており、大きな初期投資を避けられる点が強みです。実証試験では、ロボット導入により労働需要が45%以上削減されたとされています。これは人手不足が深刻な地域・作物にとって非常に魅力的な数字です。
RaaSモデルは以下のメリットをもたらします。
- 初期費用を抑えて導入できるためスモールスタートが可能
- ベンダーによるメンテナンス・ソフト更新が含まれるケースが多く、技術的負担が軽減される
- 性能を見ながら契約を段階的に拡大できるため、現場に合わせた適応がしやすい
経営者・現場管理者が押さえるべき実務的ポイント
試験段階の成果は有望ですが、実運用での採用判断には現場固有の確認が必要です。導入を検討する際のチェックリストを示します。
- 対象品種の適合性(トラス形状、果実の位置、着色・成熟パターン)
- ハウスの通路幅や設備配置がロボットの物理寸法に適合するか(今回のスリム化で改善)
- 稼働時間帯、温湿度、照明条件における認識精度と稼働安定性
- 導入後の運用フロー(搬送・選果・包装)との連携と作業割当の見直し
- 重要KPIの設定:kg/時、誤摘率(未熟果の摘取り・落下数)、稼働率、メンテナンス時間
- RaaS契約の範囲(保守、ソフト更新、故障時の代替機)と契約期間
- データ利活用:収穫データの取得・解析により栽培改善や出荷計画に活かせるか
現場導入の進め方(推奨プロセス)
- 小面積でのパイロット導入:1〜2棟で運用テストを行い、KPIを記録
- 栽培調整:トラス管理や剪定、果実保持性を見直してロボット適応性を高める
- 生産システム連携の確認:選果・搬送ラインや人員配置の最適化
- 段階的拡大:実績に基づきRaaSの契約拡大や追加ユニット導入を検討
広い視点で見た意義:食料供給と持続可能性への貢献
世界的な人口増加と労働力不足を背景に、自動化技術は供給安定化の重要な要素になりつつあります。Inahoのような収穫ロボットは、労働依存度の低減だけでなく、収穫損失の削減や精密な収穫タイミングの実現により廃棄削減にも寄与します。また、収穫の均一化やデータに基づく施肥・灌水管理は、エネルギー・水・肥料の最適化につながり、環境負荷低減にも貢献します。
まとめ:今後の展望と農場での実践的判断
Inahoの事例は、ロボティクスと栽培設計を組み合わせることで高付加価値作物の収穫自動化が現実味を帯びてきたことを示しています。現場での採用を検討する際は、品種適合性、ハウス構造、運用フロー、RaaS契約内容などを総合的に評価することが重要です。初期投資負担を抑えられるRaaSは導入のハードルを下げる有力な選択肢であり、まずはパイロット導入で実データを取ることを推奨します。
アグリテックと現場の実装がさらに密接になることで、効率性・持続可能性・生産性が同時に高まる未来が一歩近づいています。導入を検討する営農法人や現場管理者は、この潮流を踏まえて自社の栽培体系と長期的な人員計画を再設計する良い機会になるはずです。
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
イナホの収穫ロボットがオランダのトマト現場を変革――試験で収量効率が大幅改善
https://agritechdigest.com/inaho-harvesting-robot-transforms-tomato-farming-in-the-netherlands/