調査の概要と主要な発見

レポートは、トウモロコシ、大豆、小麦、綿花を250エーカー（約101ヘクタール）以上で栽培する1,000名の米国グロワーを対象に実施されました。主な発見は次の通りです。

• 多くの農家が「信頼性」と「既知の成果」を優先し、新奇性の高い未検証技術よりも既存の技術を再購入する傾向が強い。
• マージンの低さ、高金利、投入コストの変動などの経済的プレッシャーにより、大規模な先行投資はリスクが高いと見なされている。半数以上が明確なROI（投下資本利益率）を示されない限り新技術を採用しないと回答。
• 導入の複雑さ（インフラ整備、データスキルの要件など）が障壁となっており、運用負荷が増す技術は敬遠される。
• 技術プロバイダーのマーケティングが、農家の機能的・感情的ニーズと合致していない場合、採用が進みにくい。
• 機能面では「収益増」「信頼性の確保」「運用コスト削減」が主要ドライバーであり、感情面では「単純作業の時間短縮」「土壌保全」「自分の手で管理しているという安心感」が採用に影響している。
• 今年購入が見込まれる装置としては、精密散布（precision application）機器が最も多く挙げられている。

「機能」と「感情」が重なるところに採用は生まれる

BCGは自社のDemand Centric Growth（DCG）フレームワークを用い、採用の機能的ドライバーを整理しています。ここに感情的要因（時間、安心感、土壌への配慮など）が加わると、技術への受け入れが高まるという指摘は重要です。単に「効率が上がる」「コストが下がる」といった数値的な主張だけでなく、現場の不安を解消し、日々の負担を軽減するというメッセージが求められます。

生産者セグメント化とマーケティングの示唆

調査は農家を7つのセグメントに分けています。代表的な例として、持続可能性や革新を重視する「Next-Generation Green」層と、信頼と既存の取引関係を重視する「Legacy and Trust」層が対比されます。BCGは、製品設計やメッセージ、販売戦略を各セグメントに合わせてカスタマイズすることで採用を促進できると提言しています。

たとえば、リスク回避的な「Legacy and Trust」層には、長期保証や成功事例の提示、既存システムとの互換性を強調することが有効です。一方、革新志向の層には環境効果のデータや将来的な収益ポテンシャルを示すと反応が良くなります。

現場・供給者それぞれへの具体的な提案

農場経営者・現場管理者向け（導入を検討する方へ）

• 小さく試す：フルスケール導入前に、明確な評価指標を設定したパイロットを行い、実測データでROIを確認してください。
• 導入コストの全体像を把握：設備費だけでなく、運用、保守、データ管理、教育コストを含めた総保有コスト（TCO）を算出してください。
• リースやファイナンスの活用：高額な先行投資が難しい場合はリース、レンタル、パフォーマンスベースの支払いスキームを検討してください。
• サポート体制を確認：ベンダーの現地サポート、トレーニング、アフターサービスの実績や他農家の導入事例を必ず確認してください。
• 既存ワークフローとの統合性：新システムが既存機器や業務フローとどう結び付くかを重視し、切り替え時の現場負荷を最小化してください。

アグテック企業・機械メーカー向け（供給側へ）

• ROIと信頼性を前面に：短期・中期での明瞭な収益モデルと、信頼性を示すデータ（稼働率、故障率、ユーザーの声）を用意してください。
• 導入障壁を下げる設計：既存インフラとの互換性、段階的導入が可能なモジュール設計、直感的なUIを優先してください。
• トレーニングと現地サポートの強化：データ解析や運用トレーニング、ローカルディーラーを通した迅速な保守対応を提供してください。
• セグメント別メッセージング：農家の価値観（収益、環境、信頼など）に合わせた事例や訴求を用意してください。
• リスク分担モデルの検討：成果に応じた価格や、導入初期の保証、返金制度などで農家の心理的ハードルを下げる取り組みが有効です。

日本の状況への示唆

本調査は米国の大規模生産者が対象ですが、示唆は日本にも当てはまります。特に高齢化や資金繰りの厳しさ、地域ごとのインフラ差は日本の現場でも大きな課題です。日本国内でアグテックを普及させるには、地域の営農法人や共同利用の仕組み、自治体の補助を組み合わせた実証・普及モデルが効果的です。また小面積や複合経営の現場では、モジュール型・共有型のサービス提供が合致します。

まとめ：採用を促す鍵は「実利」と「信頼」

BCGとAg Accessのレポートは、技術そのものの優劣だけでなく、経済性・使いやすさ・信頼性・感情的安心感の四つが揃って初めて現場に受け入れられることを示しています。供給側は単なる機能説明ではなく、実運用での効果とリスク軽減を提示し、農家側は小さな試行を通じて現実的な効果を見極めることが重要です。アグリテックの真の普及は、技術が現場の課題をどれだけ実直に、使いやすく解決できるかにかかっています。

導入を検討中の読者の方は、まず現場での優先課題を洗い出し、ROI試算と小規模パイロットを実施する計画を立ててください。アグニューでは今後も現場で使える実践的な情報と導入事例をお届けします。