フランスの昆虫飼育先駆者Ÿnsectが清算へ——昆虫由来タンパク事業の課題が浮き彫りに
今週初めの審理を受け、商業裁判所はフランスの昆虫農業スタートアップŸnsect(イネクト)に対して司法的清算(judicial liquidation)を宣告しました。かつては大規模なミールワーム飼育で注目を集め、「昆虫由来タンパク」の旗手と見なされていた同社の経営破綻は、昆虫タンパク産業全体に横たわる構造的な課題を改めて浮き彫りにしています。
これまでの経緯(タイムライン)
- 産業規模でのミールワーム飼育により、飼料やペットフード、肥料向けタンパク源として注目を浴びました。
- 2023年:事業戦略の転換を進める中で人員削減を実施。従来の家畜飼料向けから、単価の高いペットフード市場へのシフトを図りました。
- 2024年:資金繰りが悪化し、支払不能を宣言、裁判所保護(protection)を求めました。
- 2025年4月:共同創業者で元CEOのアントワーヌ・ユベール氏が、新会社Kepreaを通じてドール近郊のパイロット施設を買収しました。
- 2025年9月:裁判所は同社を「観察期間(observation period)」下に置き、再建案検討の猶予期間を与えました。
- 今回:同社は必要な資金調達が期限内に果たせなかったとして、商業裁判所が司法的清算を命じ、ドールの工業規模設備は閉鎖されます。Kepreaが買収したパイロット設備は残り、昆虫排泄物を利用した肥料生産へと事業軸を移します。
公式声明と関係者のコメント
Ÿnsectは声明で、「継続計画のために必要な資金を所定の期間内に確保することができなかった」と説明し、気候関連や農業分野のスタートアップが資金調達に苦戦している点を挙げています。会長のエマニュエル・ピント氏は次のように述べています:
「我々には確固たる技術と運用モデルがあるものの、必要な資金が間に合いませんでした。チームが培った技術・産業的ノウハウと既存の取引関係が活かされ、欧州のタンパク自給や気候変動対策に貢献することを期待しています。」
インセクト産業全体の専門家であるDr. Dustin Crummett(Insect Institute)は、今回の事例を踏まえ次の課題を指摘しています:
「人間の食としての受容度は依然低く、動物飼料としても昆虫由来原料は大豆や魚粉に比べて2〜10倍のコストがかかることがあり、競争力を確保するのが難しい。今回の事例は業界全体の構造問題を示している。」
今回の決定が現場にもたらす影響
農業法人や集落営農、地元自治体、農機メーカーにとってのポイントは以下です。
- 施設の閉鎖は地域の雇用・供給網に影響を与えますが、パイロット設備の継続と肥料事業への転換は「資源循環」や土壌改良材としての活用という現実的な道筋を示しています。
- 昆虫タンパクの飼料化はコスト面でまだ不利であるため、現場での導入を検討する際は価格競争力だけでなく、付加価値(ペット向けの高付加価値市場、肥料や土壌改良材といった副産物)をどう取り込むかが重要です。
- 技術や人材、設備は残存資産として地域や他企業が活用可能です。買収や共同利用、自治体主導のリサイクルプロジェクトなど選択肢があります。
なぜ資金調達が難しかったのか——実務的な要因
今回のケースから見える具体的な困難は次の通りです。
- スケールメリットを出すまでの設備投資が大きく、回収に時間がかかる。
- 原材料(昆虫飼料や成長環境)や加工コストが高く、既存の大豆・魚粉に比べて単価が高い。
- 消費者受容や規制面(飼料添加物認可等)の不確実性が投資判断を難しくしている。
- 気候・環境分野のスタートアップはESG期待がある一方で、短期的な収益性を求める資本には合致しにくい。
現場責任者・技術担当者への提言
今回の教訓を踏まえ、現場で検討すべき実務的な対応策は次のとおりです。
- 投資判断では「原料コスト、処理効率、エネルギー消費、労務コスト」を詳細に見積り、感度分析を行うこと。
- 単一の用途(例:飼料)に依存するのではなく、副産物(肥料、土壌改良材、飼育副産物のバイオマス利用)を含めた収益モデルを描くこと。
- 自治体や大学、研究機関との連携でリスク分散や補助金・補助事業を活用すること。地域資源循環プロジェクトとしての採算を模索するのが現実的です。
- オートメーション、AI、センサー制御による運用コスト低減の余地を再評価し、製造原価の削減に注力すること。
- 既存の飼料サプライヤーや畜産事業者と共同でトライアルを行い、ニッチ用途(高付加価値ペットフード等)から段階的に拡大する戦略を検討すること。
まとめ:終わりではなく再編の一局面
Ÿnsectの清算は、昆虫由来タンパク産業が直面する資金調達とコスト競争という現実を象徴しています。一方で、パイロット設備や技術、人的ノウハウは地域や他企業にとって有望な資産であり、肥料など副産物を起点にした実装可能な事業モデルへの転換は現場にとって現実的な選択肢です。
営農法人や自治体の技術担当者は、今回の事例を教訓にしてリスク管理と多角化、行政との連携、技術投資の優先順位を見直す機会とすることをおすすめします。昆虫農業が「持続可能なタンパク供給」の一翼を担うためには、技術の磨き込みと現実的なビジネスモデルの両立が不可欠です。
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
フランスの昆虫飼育先駆者Ÿnsectが清算へ——昆虫由来タンパク事業の課題が浮き彫りに
https://agfundernews.com/judicial-liquidation-for-ynsect-as-insect-farming-sector-struggles-to-become-competitive
