落穂虫（FAW）と現状の課題

FAWは成長が早く繁殖力が高いため、化学殺虫剤に対する抵抗性が急速に進むことで知られています。ブラジルでは複数の有効成分に対して耐性が確認されており、既存の防除手段だけでは被害抑制が困難になっています。こうした背景から、作用機序が従来と異なる新たな防除手段への期待が高まっています。

Proviviの「フェロモンによる交尾撹乱」とは

Proviviの技術は、FAWに対するフェロモンを散布することで「交尾撹乱」を起こし、虫の個体群を抑制するというものです。製剤は3種類のフェロモンを組み合わせたスプレー可能な新世代フォーミュレーションで、オスの成虫がメスを見つけられなくなることを狙います。基礎研究にはノーベル賞受賞者のFrances Arnold氏も関わっており、2016年にはJane Goodall氏からの評価もあります。

この方式の利点は、従来の殺虫剤とは作用機序が異なるため抵抗性管理の観点で価値が高く、標的害虫に対する特異性が高いため非標的生物への影響が少ない点です。

Syngentaとの提携内容 — 何が変わるのか

今回の契約でSyngentaはブラジルにおけるProviviのスプレーフェロモン製剤の独占販売権と技術サポートを担います。Proviviは工業規模でフェロモン有効成分を生産し、両社は製品の登録手続きをすでに進めています。契約は数年にわたる長期的なパートナーシップとして位置付けられており、ProviviとSyngentaは2018年にインドネシアの水稲向けで協業を始め、その後アジアやインド、タイなどへと展開を広げてきました。

Syngentaがブラジル市場で約30％超のシェアを持つことから、Proviviにとっては最大級の市場参入の足がかりとなります。

実証データと現場での期待値

Provivi側の試験では、全試験を通じて平均で最大約5％の収量向上が確認されたと報告されています。さらにSyngenta自身も独自に試験を行い、効果と収量への好影響に納得しているということです。ただし、効果の大きさは圃場・圃場管理・被害レベルによって変動するため、現場では適切な試験導入と条件確認が重要になります。

また、FAWは高圧的発生時や周辺圃場からの再浸入がある場合には単独技術だけでは十分でないケースもあり、地域規模での取組み（面積的な連携）やIPM（総合的病害虫管理）への組み込みが推奨されます。

農業経営者・技術担当が押さえておくべきポイント

• 登録状況の確認：ブラジルでの製品登録申請は行われていますが、実際の販売・使用開始は登録承認後となります。最新情報のフォローが必要です。
• IPMへの統合：フェロモンは既存の殺虫剤やBT作物などと組み合わせた抵抗性管理プランの一部として有用です。経営レベルで年間の防除戦略に組み込む検討を行ってください。
• 適用面積・タイミング：交尾撹乱は面積効果が出やすいため、地域一体での導入や適切な散布タイミングの計画が重要です。地域の営農組織や自治体、販売代理店と連携して導入試験を行うことを推奨します。
• 適用機器との親和性：スプレー可能な製剤であるため、既存の地上散布機や航空散布、そして将来的には精密散布が可能なドローンでの利用も期待されます。ただし実運用での適合性や希釈・散布条件はメーカーの指示を確認してください。
• コストと効果のバランス：Proviviはコスト低減を進めており、広域畑作にも適用可能な価格帯を目指していますが、導入前にコスト効果分析を行い、圃場試験で自社の条件におけるROIを評価することが重要です。

グローバルな視点と今後の展開

FAWはもともとアメリカ大陸原産ですが、気候変動の影響でアフリカ、アジア中国、米国の一部などにも拡大しています。ブラジルでのSyngentaとの展開が成功すれば、他国へのモデルケースや同様の提携スキームによる普及が期待されます。

Proviviの作用機序はIPMに適合しやすく、長期的には化学防除への依存低減や耐性管理の一助となる可能性があります。営農法人や自治体、農機メーカーは、実用化の進展を見据えて実証試験、散布機器の適合、データ連携（害虫監視と連動した散布タイミングの最適化）といった準備を進めておくと導入時の対応がスムーズになります。