作物残さを「資源」に変える──農業廃棄物のバリューチェーン化と現場への示唆
近年、石油由来原料に代わる「バイオベース素材」や再生可能燃料の需要が高まる中、農業現場で発生する稲わら・麦わら・トウモロコシの茎葉(stover)といった作物残さが注目を集めています。国際的なエネルギー・化学企業OMVが進める先進的な処理・バイオ技術による残さの高度利用は、単なる環境配慮にとどまらず、営農法人や地域コミュニティにとって新たな収益源を生み出す可能性を示しています。本稿では、現場での導入を検討する方々に向けて、技術の仕組み、メリット、実務上の課題と対策をわかりやすく解説します。
なぜ「作物残さ」が注目されるのか
世界的には麦わらだけで年間約1.44億トンが生産され、トウモロコシは年間約11億トンが収穫され、その茎葉は収穫重量の半分程度になると推定されています。多くの地域では、こうした副生物が焼却されるか放置され、環境負荷(大気汚染や温室効果ガス排出)や衛生問題を招くことが課題でした。しかし、作物残さは炭素とエネルギーを豊富に含む再生可能な原料です。適切に処理すれば、燃料、オイル、ポリマー、あるいは高付加価値の化学品へと転換でき、循環型経済の基盤になり得ます。
どうやって「資源」にするのか:基本プロセスの解説
残さを有用な原料にするには、大きく分けて「分別(フラクショネーション)」「脱重合(デポリメライゼーション)」「バイオテクノロジーによる高度化」の3段階が鍵です。
- フラクショネーション(分別):植物組織を主要成分に分けます。主にセルロース・ヘミセルロース(糖質を多く含む部分)とリグニン(堅い木質成分)に分離します。
- デポリメライゼーション(脱重合):セルロースやヘミセルロースを単糖に分解します。得られた糖は発酵や微生物プロセスで、微生物油(バイオディーゼル原料やバイオベースプラスチック原料)やプラットフォーム化学品に変換できます。
- リグニンの活用:リグニンは芳香族化学品(プラスチック原料や溶剤など)への原料となる可能性があり、従来は燃料としてしか使われないことが多かった部分に高付加価値を与えます。
これらのプロセスは、既存の製油所や化学プラントの一部設備で処理できるケースもあり、既設インフラとの統合が進めば立ち上げコストを抑えつつ脱炭素化に寄与できます。
現場にもたらすメリット
- 環境負荷の低減:残さの野焼きや放置を減らし、大気汚染と温室効果ガスの排出を抑制できます。
- 新たな収益源:副産物を売却することで、営農所得を増やす可能性があります。特に集荷・加工のスキームを組めば、地域全体で収益化が可能です。
- 食料生産との競合が少ない:原料は主作物の副産物であり、食料生産量を直接圧迫しません。
- 地産地消の素材供給:地域のバイオマスを地域内で加工・利用することでサプライチェーンの回復力を高められます。
現場で直面する課題と実務的な対策
ただし、実運用にはいくつかの現実的なハードルがあります。代表的な課題とその対策をまとめます。
- 課題:分散・季節性のある供給
対策:地域単位で共同集荷拠点(バイオマスハブ)を作り、圃場からのバンチング・梱包(ロールベールなど)、乾燥・前処理を行って規格化する。集落営農や営農法人で共同投資を検討する価値があります。 - 課題:品質と規格のばらつき
対策:水分、異物混入、粒度といった受け入れ基準を設けた検査体制を整える。前処理(乾燥、粉砕、選別)を導入してバイオリファイナリー側の負担を下げます。 - 課題:収集・輸送コスト
対策:輸送距離を短くするために中間処理拠点を設置し、重量あたりのエネルギー密度を高める(圧縮やペレット化)ことで輸送効率を改善します。自治体補助や国の補助金を活用することも有効です。 - 課題:技術のスケールアップ
対策:パイロットプロジェクトを実施し、大学や技術ベンダー、化学メーカーと協業する。OMVのような企業は研究開発と産業界の橋渡しを行っており、共同プロジェクトを通じたノウハウ移転が期待できます。
OMVの取り組みから学ぶこと
OMVは、作物残さを分別・脱重合し、微生物油やポリマー前駆体、リグニン由来の芳香族化学品などに変換するプロジェクトを推進しています。ポイントは「既存の精製資産と組み合わせて処理を最適化する」点で、これにより化石燃料依存を下げながら既存プラントの活用価値を高めています。また、産学官の連携で原料の変動性を吸収するエコシステムを整備している点も重要です。
営農法人・自治体・農機メーカーへの具体的提言
- まずは小規模なパイロットを始め、バイオマスの量と品質を把握する。
- 集落営農や営農法人で共同の集荷・前処理インフラを検討し、コスト分担と収益配分のルールを明確にする。
- 技術ベンダーや研究機関と連携して、現場に適した前処理(乾燥、粉砕、脱葉など)仕様を確立する。
- 自治体は補助金やインフラ整備で支援し、廃棄物処理と産業利用の規制整備を進める。
- 農機メーカーは収穫後の処理・集荷を容易にする機器(バンチング、梱包、前処理機器)の開発を加速する。
まとめ:廃棄ではなく「始まり」へ
作物残さは従来の「廃棄物」から、循環型経済の「始まり」として再定義されつつあります。技術的にはフラクショネーションや脱重合、バイオテクノロジーによる高度化が鍵であり、経済的には集荷・前処理・標準化といった実務の整備が成功の分かれ目になります。営農法人や集落営農、自治体、機械メーカーが連携して実運用スキームを作れば、環境負荷低減と新たな収益創出を両立できる道が開けます。
OMVの事例や最新技術の動向については、OMVの公式サイト(https://www.omv.com)で詳細を確認できます。地域に応じたスキーム設計や技術選定の相談が必要な場合は、まず近隣の大学や技術ベンダー、自治体の窓口と連携してパイロットを始めることをおすすめします。
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
作物残さを「資源」に変える──農業廃棄物のバリューチェーン化と現場への示唆
https://www.agritechmag.com/technical-articles/103136-transforming-crop-waste-into-wealth-the-future-of-agricultural-residues
