NECの農業プラットフォーム「CropScope」が示した脱炭素効果──冬小麦で23%(約‑6tCO2e)削減を報告
NECは、気候変動対話の場であるCOP30(2025年11月、ブラジル・ベレン)で、同社の農業ソフトウェアプラットフォーム「CropScope」が示した脱炭素ポテンシャルを発表しました。グローバルな気候コンサルタントであるCarbon Trustと共同で実施した北海道でのケーススタディにおいて、CropScopeの可変施肥(バリアブルレート施肥)機能が冬小麦で23%のCO₂e削減(約‑6トンCO₂e)を達成したと報告されています。
何が評価されたのか──「Net Carbon Impact Assessment」とは
今回の算定は、欧州の「Green Digital Coalition(欧州グリーンデジタル連合)」が推進するNet Carbon Impact Assessment(ネットカーボンインパクト評価)の枠組みで実施されました。これはデジタル技術がもたらす環境貢献を科学的に評価する手法で、NECは日本企業として初めてこの評価プロジェクトに選定されています。Carbon Trustの協力を得て、CropScopeが現場でどれだけ温室効果ガス削減に寄与するかを定量化した点に意義があります。
仕組みのポイント:衛星データと可変施肥の連携
CropScopeが提供する可変施肥の流れは大きく分けて以下の通りです。
- 衛星画像からNDVI(植生指数)や推定土壌窒素量を解析し、圃場を複数の管理ゾーンに区分する。
- 各ゾーンごとに最適な施肥量を自動計算し、施肥マップを生成する。
- 生成したマップを対応するトラクターや施肥機と連携し、ゾーンごとの自動施肥を実行する。
この流れにより、均一施肥では起きやすい過剰施肥や局所的な不足を是正し、肥料の使用効率を高めることが可能になります。衛星データを活用することで広域にわたるモニタリングが可能で、ドローンや地上センサーとの組み合わせで精度を高めることもできます。
なぜ温室効果ガスが減るのか──N2O削減のメカニズム
肥料由来の窒素は、土壌中で硝化・脱窒反応を経て一部が亜酸化窒素(N2O)となり、大きな温室効果をもたらします。過剰な施肥を抑制することで土壌中の不要な窒素供給が減り、N2Oの発生を抑えることができます。今回のケーススタディでは、この効果を踏まえてCropScopeの可変施肥が温室効果ガス排出の純削減(約‑6tCO2e、23%)につながると算定されました。
現場への導入と運用のしやすさ
注目すべきは、CropScopeが「データ解析→施肥マップ生成→機械連携」という一連の流れを現場向けに簡素化している点です。従来、可変施肥は専門知識や煩雑な設定を要する場合が多く、導入のハードルが高い技術でしたが、ユーザーインターフェースや運用設計を工夫することで、初めて使う現場でも扱いやすくしていることが報告されています。対応機械との連携(ISOBUSなどの標準プロトコルに準拠しているか確認することが重要)は、実運用での自動施肥を可能にします。
経営・現場への示唆(営農法人・現場管理者向け)
今回の報告は、営農現場にとって以下のような示唆を与えます。
- 投入資材の効率化によるコスト削減:肥料の過剰投入を抑えることで投入コストの低減が期待できます。
- 環境負荷低減と社会的評価:温室効果ガス削減の定量的報告は、サプライチェーンや補助金・認証での評価材料になります。
- 現場導入の障壁低減:使いやすいUIと機械連携により、専門相談を受けながら段階的に導入しやすくなっています。
- 収量とのバランス確認が必要:施肥削減が収量や品質に与える影響は作物・土壌条件で変わるため、現地試験で確認することが重要です。
導入前に確認すべきポイント(実務チェックリスト)
- 対象作物と時期:今回の評価は冬小麦での事例です。他作物では効果が異なる可能性があります。
- 圃場データの精度:衛星データの解像度や雲被覆、補助となる地上観測の有無。
- 機械の互換性:トラクターや施肥機の自動制御対応(ISOBUSなど)を確認する。
- ローカルの土壌特性や気象条件での検証:現地での小規模パイロットで調整すること。
- データ管理・プライバシー:データの所有権や第三者利用の可否を契約時に明確にする。
- 費用対効果と補助制度:導入費用に対する回収見込み、国や自治体の補助金、カーボンクレジット制度の活用可能性を検討する。
今後の展望とまとめ
デジタル技術を通じた農業の脱炭素化は、単なる温室効果ガス削減にとどまらず、資材効率化や作業の省力化、サステナビリティ評価の客観化につながります。NECの今回の定量評価は、デジタル農業が具体的に温室効果ガス削減に寄与する証左として重要です。ただし、現場ごとの条件差が大きいため、導入は段階的なパイロット→拡大のプロセスとし、収量や土壌保全とのバランスを慎重に検証することをお勧めします。
営農法人や集落営農、地域の技術担当の皆様は、まずは自分の圃場での小規模トライアルを検討し、機械メーカーやソフト提供者、自治体の支援制度を活用して導入の実効性を確かめるとよいでしょう。CropScopeのようなプラットフォームは、将来のカーボン会計や環境報告で重要な役割を果たす可能性があります。
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
NECの農業プラットフォーム「CropScope」が示した脱炭素効果──冬小麦で23%(約‑6tCO2e)削減を報告
https://www.agritechmag.com/news/103478-nec-presents-the-decarbonization-potential-of-its-agricultural-solution
