ベトナム、農業と環境を一体化した「グリーン成長」へ──省庁合併と技術重視でスマート農業を加速

11/14/2025

ベトナム、農業と環境を一体化した「グリーン成長」へ──省庁合併と技術重視でスマート農業を加速

ベトナム政府が農業と環境保全を国家戦略の中心に据え、持続可能な農業への転換を急いでいます。ハノイで行われた式典では、党総書記のTô Lâm（トー・ラム）氏がイノベーション主導の発展ビジョンを示し、農業と環境に関する行政の80年の歩みと新たな出発が強調されました。特に、農業関係省庁と環境資源関連省庁の統合は、グリーン成長とエコイノベーションのための統一的なガバナンスを目指す重要な一歩と位置付けられています。

今回のポイント（要約）

農業省と環境省の統合により、環境保全・資源管理・気候適応を一体化した政策運営へ移行する見込みです。
科学技術（バイオテクノロジー、自動化、デジタル農業）を中心に据え、農業の効率化とレジリエンス向上を図ります。
制度改革や再生可能エネルギー、循環型経済への民間投資誘致が長期的繁栄の鍵とされています。
メコンデルタや沿岸域での生態系管理強化、行政手続き簡素化、人材育成も重点課題です。

なぜ農業と環境の統合が重要なのか

ベトナムは沿岸国かつデルタ地帯を抱えるため、海面上昇や異常気象、塩水侵入など気候変動の影響を強く受けます。従来の農政と環境政策が分かれていると、現場の課題に対して断片的な対応になりがちです。省庁の統合は、土地・水・鉱物・環境管理を一元的に整備することで、気候適応や持続可能な資源利用を政策レベルで結びつける意図があります。

政策の中核：科学技術と制度改革

党総書記は科学技術を農業近代化の中心と位置付け、バイオ技術、デジタル貿易、農業の自動化を具体例として挙げています。現場では、以下のような分野が重点的に推進されると考えられます。

精密農業・リモートセンシング・ドローンによる圃場管理の普及促進
自動トラクターや収穫機の導入による労働力不足対策と生産性向上
バイオテクノロジーを活用した高耐性品種や病害虫管理の強化
デジタル化によるサプライチェーンの透明化とデジタル貿易対応

同時に、法制度の整備（農地・水資源の管理規定強化）や行政改革による投資環境の改善も進められる見込みです。

現場（営農法人・個人農家）への示唆

営農法人や集落営農、IT導入を検討する現場責任者にとって、今回の動きは次のような実務的チャンスと注意点を示します。

デジタル化・自動化への投資機会：補助金や公的プロジェクトの連携で導入コスト負担が軽減される可能性があります。センサー、ドローン、無人機器の導入を検討してください。
再生可能エネルギー・循環型プロジェクト：太陽光、バイオマスを含む農場レベルでのエネルギー自給や副産物利用の事例が拡大します。経営モデルの多角化が図れます。
制度変化への対応：土地管理や環境規制の強化が見込まれるため、土地利用計画や環境対策の早期整備が必要です。
人材育成：農業経済や資源管理、気候科学に関する技能・知識が今後ますます価値を持ちます。従業員の研修投資を検討してください。

農機メーカー・自治体技術担当者への提言

ローカライズされた自動化機器の開発：小規模圃場向けの低コスト／高耐久な無人トラクター、ドローンソリューションが求められます。
データ連携とプラットフォーム整備：農場データの集約・分析サービスを提供し、行政や研究機関と連携できる仕組みを作ることが有利です。
公民連携のパイロット：自治体が先導する実証プロジェクトに参画し、制度対応や現地適応性を示すことが販路拡大につながります。

リスクと留意点

重要な留意点として、ベトナムは「土地は国家の統一的管理下にある」との方針を再確認しています。土地政策の方向性や規制強化は、外国投資や事業計画に影響を与える可能性があります。また、環境基準の厳格化や監視強化によって、事前の環境対応が必須になるケースも増えます。

今後の見通しと現地対応のすすめ

ベトナム政府は制度改革、技術導入、人材育成、投資誘致を同時に進める方針を明確に示しました。営農現場や農機メーカー、自治体技術部門は、以下の点を優先的に進めると良いでしょう。

最新の政策動向と法改正を継続的にモニターする。
研究機関・スタートアップ・協同組合との共同実証を通じて現場適応性を高める。
従業員のデジタル／環境スキルの向上に投資する。
再生可能エネルギー・循環型事業のビジネスケースを早期に検証する。

ベトナムの動きは、域内の気候リスクへ対処しつつ、スマート農業とグリーン経済を結び付ける好例です。日本の農機メーカーや営農法人にとっても、協業・技術輸出・共同研究といった多様な機会が生まれる可能性が高まっています。今後の法整備や実証プロジェクトの公募情報に注目し、現地パートナーと早めに接点を持つことをおすすめします。

（参考）：ハノイで行われた式典では、第一次の愛国競争大会の開催とともに、農業環境省に対して一等労働勲章が授与され、同省の役割と貢献が評価されました。