インドのTractor JunctionがシリーズAで2,260万ドル調達——農機流通×フィンテックで農機の「入り口」を変える
インドの農機プラットフォーム「Tractor Junction(トラクタージャンクション)」が、シリーズAラウンドで2,260万ドルを調達しました。今回のラウンドはAstanorが1,700万ドルの出資でリードし、5.6百万ドルのデットファイナンスを含む構成です。既存投資家のInfoEdge VenturesやOmnivoreも参加しています。2019年にAgFunder支援のGROW Impact Acceleratorを卒業した同社は、資金を使って「信頼できる車両と手頃な融資へのアクセス」をさらに拡大するとしています。
何をしている会社か(事業概要)
Tractor Junctionは2018年創業のスタートアップで、創業者はRajat Gupta、Shivani Gupta、Animesh Agarwalです。同社はオンラインの農機比較・検索プラットフォームを軸に、以下のような事業を展開しています。
- デジタルマーケットプレイス:メーカー(OEM)やディーラーの新車・機械情報を集約し、農家が比較検討できる場を提供。
- オフラインコマース:自社運営のショールーム(75拠点)を通じて中古トラクターや商用車の売買を実行し、流通の現場を押さえる。
- フィンテック(FINJ):2024年1月に立ち上げた金融サービスで、融資と保険を提供し、農家が手頃な条件で車両を購入できる仕組みを実現。
収益の柱と技術活用
Tractor Junctionは現在ほぼ黒字化に近い運営状況で、主に3つの収益源があります。
- プラットフォーム:リード生成や広告でOEMやディーラーから収益を得る。
- コマース:自社ネットワークで車両を仕入れ・販売し、売買差益を確保。ここでAIベースのプライシングエンジンを導入し、オンライン・オフラインデータを用いた査定精度を高めている点が特徴です。
- FINJ(金融サービス):提携貸し手と連携して融資や保険を仲介し、手数料を得る。データ駆動の与信により従来の「非正規」高利貸しに比べ低金利の提供を可能にしています。
なぜ注目すべきか(背景と意義)
先進的なロボットや無人機による農作業の話題は増えていますが、多くの農家にとってはまず「トラクターや機械そのものが手に入りにくい」ことが喫緊の課題です。特にインドの農機市場は極めて断片化・不透明で、不当な価格や高利の非正規融資が蔓延しています。Tractor Junctionはデジタルと現場ネットワーク、フィンテックを組み合わせることで、この基本的な「機械へのアクセス」問題を解くビジネスモデルを作っています。
FINJによる金融革新——データ活用で金利を下げる
同社の主張によれば、従来インドの一部農家は30〜40%という高金利の非正規融資に頼っていました。FINJは、土地所有や過去の車両保有履歴、利用パターンなどのデータと、同社が運営する中古車マーケットのアセットインサイトを組み合わせたデータ駆動型与信で、初期は約20%程度、クレジットヒストリーの構築により13〜15%まで金利を下げることを可能にしていると説明しています。
実績とスケールの数字
- FY2025の営業収益は約120.8クロール(ルピー)(約1,365万ドル)とほぼ倍増。
- 現在の年間ランレート(ARR)は250クロール(約2,820万ドル)。2年で1,000クロール(約1.13億ドル)を目指しているとしています。
- 過去3年で7,000台のトラクターを販売。
- ここ2年で3万以上の農家の機械化を後押し。
- 年間6,000万の訪問者、OEMパートナーは50社超。
- FINJは25の提携貸し手とともに1.69億ドル以上の融資を実行。
投資家や創業者のコメント
「インドの農村経済は持続可能な食料システムの未来にとって重要です。Tractor Junctionはテクノロジーと現場力、フィンテックを組み合わせ、信頼できる手頃な農機プラットフォームを構築しています。」— Astanorパートナー Hendrik van Asbroeck(訳)
「創業者チームは顧客志向で事業基盤が堅牢です。特に地方消費者に対するコマースと金融提供は重要な役割を果たします。」— Info Edge Venturesパートナー Kitty Agarwal(訳)
日本の営農現場への示唆(何を学べるか)
日本の営農法人や集落営農、個人農家の現場責任者にも参考になる点がいくつかあります。
- オンラインとオフラインのハイブリッド:デジタルで情報提供し、現場ショールームで信頼を築く二層構造は、農機導入の心理的・実務的ハードルを下げます。
- データ駆動の資産評価と与信:中古機械の正確な査定や利用データをベースにした与信は、機械リースやローンの適正化に寄与します。特に無人トラクターやスマート農機の稼働データが蓄積されれば、より精緻な金融商品設計が可能になります。
- OEMや金融機関との協業モデル:メーカー、ディーラー、金融機関が一体となるエコシステムは導入コスト低減と普及加速に有効です。
今後の注目点
Tractor Junctionが掲げるスケール計画(ARRの大幅拡大や融資・流通の伸長)がどこまで実現するかは、以下の点で注目されます。
- AI査定とフィンテックをつなぐ与信の精度向上と貸倒れ管理。
- OEM・ディーラーとの関係深化による新車販売での収益性確保。
- 地方拠点の拡大による現場サービス力の維持・向上。
- 気候変動対策やスマート農機(自動化・遠隔監視)との連携による製品ラインナップの拡充。
まとめ
Tractor Junctionの動きは、「機械そのものの流通」と「手頃な金融」を組み合わせることで農業の機械化を現実的に進める一つの成功モデルを示しています。日本の営農現場でも、オンライン情報の充実、現場での信頼構築、そしてデータに基づく金融サービスといった要素は重要です。特に無人トラクターやIoT搭載機の普及を目指す場合、機械データを与信や保守サービスに活用する発想は今後ますます重要になっていくと考えられます。
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
インドのTractor JunctionがシリーズAで2,260万ドル調達——農機流通×フィンテックで農機の「入り口」を変える
https://agfundernews.com/tractor-junction-raises-22-6m-series-a-to-scale-rural-vehicle-marketplace-fintech-business
