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スマート農業分野の灌水制御技術 デンソーと共同で検証開始 ディーピーティー|JAcom 農業協同組合新聞

デンソーとディーピーティーが共同検証開始——「水を吸う力」を計る土壌センサーで精密灌水へ

愛知県のディーピーティー株式会社(DPT)と株式会社デンソーが、スマート農業分野での灌水制御技術の共同検証を開始しました。舞台はDPTが所有する岐阜県可児市の研究用ビニールハウス。デンソーが開発を進める土壌センサーと、DPTの環境制御システム「e-minori plus」を組み合わせ、従来の「日射比例灌水制御」と比較するかたちで、収量や品質への影響を検証します。実施期間は10月中旬から翌年5月頃までの予定です。

目次

両社の役割と狙い

今回の共同検証では、両社がそれぞれの技術を持ち寄り、現場での有効性を確かめます。

  • デンソー:土壌センサーを提供。地温、含水率、EC(電気伝導度=塩類指標)、水ポテンシャル(pF)という4項目を計測し、特に「作物が水を吸える状態」を数値化する点が特徴です。
  • DPT:自社開発の環境制御システム「e-minori plus」にセンサーを連携。ハウス内の環境をリアルタイムに可視化し、既存の「日射比例灌水制御」との比較データを蓄積・解析します。

日射比例制御と水ポテンシャル制御——異なるアプローチの比較

灌水制御にはさまざまな手法がありますが、今回比較される2方式は次の通りです。

  • 日射比例灌水制御:ハウス内の日射量(太陽光の強さ)に応じて灌水量を増減する手法です。晴天時は蒸散が増えるため水やりを多めに、曇天時は控えめにするという直感的で運用しやすい方法です。
  • 水ポテンシャル(pF)制御:土壌センサーで測定した水ポテンシャルの数値に基づき、作物が実際に「水を吸えるかどうか」を判断して灌水する方式です。作物の生理状態や土壌中の水の結び付き具合を直接反映するため、より精密な灌水が期待できます。

水ポテンシャル(pF)とは何か、現場での意義

水ポテンシャル(pF)は、土壌中の水がどれだけ植物に吸われやすいかを示す指標です。簡単に言えば「作物が水を吸う力に対して、土がどれだけ水を保持しているか」を数値化したものです。数値から作物が水を取りにくい状態にあるかどうかを把握できれば、不要な潅水を減らしつつ、作物が水ストレスを受ける前に適切に水を与える制御が可能になります。

併せて測定するECは土壌塩類の蓄積状況を示すため、灌水が塩害に与える影響や潅水の排塩効果もモニタリングできます。地温や含水率のデータと合わせることで、より包括的な水管理が可能になります。

検証で期待される効果

両社は今回の実証で以下の項目を明らかにし、現場導入を見据えた技術の磨き込みを目指します。

  • 日射比例制御と水ポテンシャル制御の比較による収量・品質への違いの把握
  • 灌水タイミングや水量の最適化による水利用効率の向上
  • センサーと制御システムの連携によるリアルタイム可視化と運用のしやすさの確認
  • 得られたデータを基にした、栽培環境や作物に応じた柔軟な提案の検討

現場で導入を検討する際の実務ポイント

営農現場の責任者や導入を検討する方に向けて、今回の取り組みから押さえておきたい実務的なポイントをまとめます。

  1. センサーの設置と代表性
    土壌特性は圃場内でばらつきがあるため、センサーの数と設置位置が成果を左右します。まずはパイロット区画で設置し、土壌バリエーションに応じた配置を検討することが重要です。
  2. メンテナンスと耐久性
    土壌センサーは長期で安定したデータを得るために定期点検やキャリブレーションが必要です。ハウス環境や土壌条件に耐えうる機種選定と保守体制を確認してください。
  3. 経済性の検証
    導入コストと運用コストに対する効果(節水、品質向上、労務削減など)を現場データで検証することが不可欠です。今回のような共同実証は、実データに基づく費用対効果の評価に資します。
  4. 制御ロジックの柔軟性
    単一の指標に頼るのではなく、日射量やEC、地温など複数のデータを組み合わせたハイブリッド制御が現場適応力を高めることがあります。将来的にモード切替や条件分岐が可能なシステムを選ぶとよいでしょう。
  5. 人材育成と運用ルール
    データの読み方、アラート対応、灌水例外時の判断基準など、運用ルールを整備し現場担当者の教育を行うことが成功の鍵です。

メーカー・自治体への示唆

農機メーカーや自治体の技術担当者にとっても、今回の検証は示唆に富んでいます。センサーと制御装置のインターフェース標準化、データフォーマットの整備、自治体による実証支援や補助事業との連携は、普及を加速させるポイントです。また、地域ごとの土壌特性に基づくガイドライン作成や小規模営農向けの簡易版制御パッケージの開発も検討に値します。

今後の展望

今回の検証で得られるデータや知見は、デンソーの土壌センサーとDPTの「e-minori plus」それぞれの研究開発に還元されます。将来的には、土壌の実態に即した精密な灌水管理と、生産者のニーズや栽培条件に応じた柔軟な提案が可能になることが期待されます。特に水資源の制約や高品質生産のニーズが高まる中、こうしたセンサー駆動の制御技術はスマート農業の中核技術になり得ます。

今回の共同検証は10月中旬スタートで翌年5月頃まで継続する予定です。現場での具体的な効果や運用上の課題は、実証期間中に蓄積されるデータによって明らかになってくる見込みです。営農法人や自治体、メーカーの担当者は、実証の中間報告や最終報告に注目するとともに、自身の現場でのトライアル計画策定の参考にしていただければと思います。

詳しい記事の内容はこちらから(引用元)

スマート農業分野の灌水制御技術 デンソーと共同で検証開始 ディーピーティー|JAcom 農業協同組合新聞
https://www.jacom.or.jp/saibai/news/2025/11/251107-85566.php

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