海藻など「海の植物」が切り拓く持続可能農業の新領域──256件レビューが示す実用可能性と現場導入のポイント
海中に広がる未開拓の資源、いわゆる「海の植物(海藻や微細藻類)」に含まれる生理活性化合物が、持続可能な農業や畜産、さらには産業・バイオ医療にまで広がる多面的な応用可能性を示しているという総説論文が、Frontiers in Plant Scienceに発表されました。ハラン大学(トルコ)生化学科のメティン・ユルドゥリム氏らによるこのレビューは、2011年から2025年までの256件の研究を総合し、海洋植物エキスの急速な研究発展と実用化ポテンシャルを整理しています。
レビューが示した主なポイント
- 海洋植物由来の化合物は抗酸化、抗菌、抗炎症など多様な生理活性を示す。
- これらのエキスは作物のバイオスティミュラント(生育促進材)や、家畜の機能性飼料添加物として生産性・耐性を向上させる可能性がある。
- ポリサッカライド(アルギン酸、カラギーナンなど)やフェノール類、硫酸化多糖類は、天然色素、バイオ分解性フィルム、金属防食剤など産業用途にも応用可能である。
- エキスを用いたグリーン合成で作られるナノ粒子は、生物学的性能が高く、バイオ医療(例:がん治療)への応用の可能性も示唆されている。
- 「持続可能な化学品の代替」として合成薬剤依存の低減につながる可能性がある一方で、分子レベルでの特性解析、株育種、スケールアップが今後の課題である。
農業現場で期待される具体的な応用
- バイオスティミュラント:ストレス(塩害・乾燥・低温)耐性や生育促進効果を付与し、収量や品質の安定化に寄与します。既存の肥培管理との併用で化学肥料・農薬の使用削減が期待できます。
- 機能性飼料添加物:抗炎症・抗菌性を活かして家畜の腸内環境改善や免疫強化を図り、飼料効率や疾病抑制につなげる事例が増えています。
- 天然色素・包装材料:農産物の付加価値化(天然由来の着色やポストハーベスト包装)や、バイオ分解性フィルムによるプラスチック削減が可能です。
- 農機具・施設の保護:フェノール類や硫酸化多糖類は金属腐食抑制材としても機能し、インフラの長寿命化に貢献します。
スマート農業との親和性:ドローン・無人機・AIでどう使うか
海洋植物エキスの現場利用は、スマート農業技術と高い親和性を持ちます。例として:
- エキスの葉面散布はドローンや無人トラクター搭載のタンクで低コスト・迅速に実施でき、散布量の最適化はAIによる処方設計や作物生育データ(NDVI等)との連携で高度化します。
- 養殖や海藻栽培のデータ(海況、養殖密度、栄養塩)をAIで解析し、収穫時期や品質を予測して安定供給を図ることが可能です。
- ブロックチェーンやトレーサビリティと組み合わせれば、海由来原料の持続可能性・認証情報を消費者や企業に提示できます。
産業・バイオ医療分野での広がりと注意点
天然色素やバイオ分解性フィルム、さらにはグリーン合成ナノ粒子など、農業以外の産業用途でも実用化が見込まれます。ただし、バイオ医療分野(例:がん治療)への応用は有望である一方、毒性評価や規制適合が厳格であり、臨床応用には長期の検証が必要です。
現場導入で直面する技術的・運用上の課題
- 原料の安定供給:天然資源ゆえに季節変動や収量変化があり、養殖や陸上培養による安定生産体制の構築が必要です。
- 品質のばらつき:成分含量の変動が機能性に直結するため、分子レベルでの特性解析と標準化が不可欠です。
- 加工・抽出のスケールアップ:環境負荷の低い(グリーン)抽出技術の確立とコスト適正化が求められます。
- 規制・安全性評価:飼料添加物や農薬代替を目指す場合、各国の規制基準に基づく安全性・有効性試験が必要です。
- 生態系影響:天然採取の拡大は海洋生態系に影響する可能性があるため、持続可能な採取管理や認証が重要です。
営農法人・現場管理者への実践的アドバイス(チェックリスト)
- まずは小規模の現地試験を実施して効果を確認する(対照区を明確にする)。
- 飼料添加物としての導入は獣医や畜産技術者と連携し、飼育試験を計画する。
- 供給元(海藻生産者・抽出メーカー)の生産方法、品質保証、持続可能性(認証)の確認を行う。
- ドローン散布や無人機による適用を検討する場合、処方(希釈率・粒度)と機材仕様の適合性を確認する。
- AI・リモートセンシングと組み合わせて効果測定を定量化し、投資対効果(ROI)を評価する。
- 規制面(飼料添加物、農薬類、食品表示)について法務・公的機関に相談する。
- 地域の大学・研究機関、産業支援団体と共同でフィールド評価や共同開発を進める。
今後の研究・産業展開で注目すべき点
- 分子レベルでの作用機序解明と有効成分の標準化が進めば、農業用途での信用性と採用が加速します。
- 陸上バイオリアクターを用いた微細藻類大量培養や、海上養殖の高効率化が原料安定供給の鍵になります。
- グリーン抽出・加工のコスト競争力が向上すれば、既存の合成資材からの代替が現実味を帯びます。
- 規制整備と産業標準(品質、トレーサビリティ、ラベリング)が整えば市場拡大が進みます。
まとめ:現場での第一歩をどう踏み出すか
Frontiers in Plant Scienceの総説は、海洋植物エキスが「持続可能性」と「多用途性」を兼ね備えた新たな資源であることを示しています。とはいえ、現場導入には品質管理、供給体制、法規制対応といった現実的課題があります。営農法人や現場管理者としては、まずは小さな実証から始め、スマート農業技術(ドローン・無人機・AI)や地域の研究機関と連携してエビデンスを積むことが近道です。
海の植物は、農業だけでなく産業や医療分野にも波及効果をもたらす可能性が高い「次の資源」です。現場での実証と産学連携を通じて、その可能性を着実に引き出していくことが求められます。
出典:Metin Yildirimらによるレビュー(Frontiers in Plant Science)。2011–2025の256件の研究を総合。
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
海藻など「海の植物」が切り拓く持続可能農業の新領域──256件レビューが示す実用可能性と現場導入のポイント
https://agritechinsights.com/index.php/2025/11/06/marine-plants-unlock-sustainable-agriculture-goldmine/