AI農業に茶の再編集、大地の力で食の未来を変える4人の起業家 | Forbes JAPAN 公式サイト（フォーブスジャパン）

11/08/202511/14/2025

食の未来を技術と文化で拓く——Forbes JAPAN選出の起業家に学ぶ、現場で使えるヒント

「食を通じて、いのちを考える」を掲げる大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「EARTH MART」とForbes JAPANが連動し、食の未来を輝かせる25人を選出しました。本誌11月号では生産者、料理人、起業家、研究者など多様なプレイヤーを紹介しています。本稿では、その中から農業現場の変革と日本文化の再編集という観点で注目される起業家を取り上げ、営農現場や農機・IT導入を検討する皆さまにとって実務的な示唆を整理して解説します。

注目の起業家（抜粋）

加藤百合子（エムスクエア・ラボ代表取締役CEO）——現場の働き手不足と気候変動にAI・IoTで対抗

加藤氏は、屋外作業用モビリティの開発や農産物の流通プラットフォーム提供を通じて、担い手減少と気候変動が食の「当たり前」を脅かす状況に対処しようとしています。精密農業でのAI・IoT活用を軸に、どこでも安定して食料を生産するための仕組みづくりを進め、インドでの現地実証も行っている点が特徴です。

取り組みのポイント：屋外モビリティ（現場の移動・作業支援）、流通プラットフォーム、AIによる生産最適化
現場メリット：人手不足のカバー、作業効率化、気象変動への迅速な対応
示唆：日本発の技術を現地適応させるR&Dと実証（フィールドデータの蓄積）が成功鍵

岩本涼（TeaRoom代表）——日本文化と茶の再編集で、茶を体験商品へと転換

岩本氏は「品質だけで勝てる時代は終わり、文化との組み合わせが鍵になる」と語り、日本茶を単なる商品ではなく、体験や学びを伴うサービスとして再編集しています。茶会のフォーマットを用いた顧客体験設計や研修事業、製茶工場の継承による生産・流通の一貫運営など、文化的価値を付加することで新たな需要を生み出しています。

取り組みのポイント：体験設計、文化コンテンツ化、垂直統合（生産〜流通）、海外向けストーリーテリング
現場メリット：高付加価値化、観光・教育との連携、地域ブランド強化
示唆：トレーサビリティやストーリー発信を組み合わせることで、価格競争に頼らない差別化が可能

農機メーカー・営農法人が現場で取り入れるべきポイント

Forbesの選出事例から、営農現場や関連企業が今すぐ検討できる具体的戦略を整理します。技術導入だけでなく、価値づくり・流通設計まで含めた視点が重要です。

精密農業の段階的導入：センサ、ドローン、無人トラクター、AI解析を一度に全部導入する必要はありません。まずは気象・土壌データや圃場画像を集めるところから始め、利益の見える小さなパイロットを実施してから拡大してください。
屋外モビリティと働き方改革：高齢化・担い手不足には、移動支援・作業支援ロボットや運搬用モビリティが有効です。現場の負荷を下げることで作業継続性が高まり、若手や女性の参入もしやすくなります。
流通プラットフォームと垂直統合：生産から流通・販売までを見通したプラットフォーム構築は、価格変動リスクの軽減と付加価値づくりに直結します。サプライチェーンごとのデータ連携（生産履歴・トレーサビリティ）を整えることが重要です。
文化・体験の価値化：茶の事例が示すように、製品に「体験」や「背景」を付与することで市場での差別化が可能です。地域文化や農業のストーリーを商品化する取り組みは、観光、教育、海外販路にも有効です。
海外展開の現地適応：技術をそのまま持っていくだけでは課題が残ります。現地パートナーと実証を重ね、環境・習慣に合わせたカスタマイズが成功の鍵です。

導入にあたっての注意点と実務アドバイス

技術や文化づくりを現場に落とし込む際の実務的な注意点をまとめます。

データ基盤を整える：センサやドローンからのデータが散逸しないよう、収集・保管・分析のワークフローを最初に設計してください。
現場担当者の巻き込み：新技術は現場に受け入れられてこそ価値を発揮します。試作段階から現場の声を反映し、操作性や保守性に配慮した導入を行ってください。
小さな成功体験を積む：パイロットプロジェクトでコスト削減や品質向上など明確なKPIを設定し、効果が確認できたものだけを拡大することが失敗リスクを下げます。
ストーリーテリングと証明：高付加価値商品を作る場合は、どのような価値を届けたいかを明確にして、トレーサビリティや認証で裏付けることが重要です。

まとめ — 技術と文化の両輪で「食の未来」をつくる

Forbes JAPANが示すプレイヤーたちは、AIやIoTといったテクノロジー面の進化だけでなく、文化や体験という価値面の再編集にも着目しています。営農法人や農機メーカー、自治体の技術担当者にとって重要なのは、技術導入が目的化しないよう、最終的に「誰のために、どんな価値をつくるか」を軸にプロジェクトを設計することです。

現場での実装・維持を見据えた小さな実証から始め、文化的価値の発信や流通改革と組み合わせることで、日本の農業が持続可能で魅力的な産業へと進化するためのヒントがここにあります。まずは自分たちの圃場・ビジネスモデルで試せる一歩を検討してみてください。