フェロモンを武器に普及加速──Provivi、世界的パートナー戦略で作物保護を拡大
害虫の既存農薬に対する抵抗性が世界的に進む中、代替となる作物保護の選択肢として「フェロモン」を利用した製品への注目が高まっています。カリフォルニア拠点の作物防除ベンチャー、Provivi(プロヴィヴィ)は、主要農化メーカーとの戦略的パートナーシップを通じ、フェロモンベースの製品を幅広い作物・地域へと拡大しており、日本の営農現場でも参考になる知見が出ています。
Proviviの動き:短期間で世界展開を加速
Proviviはここ数年で、大手企業との協業を軸に事業を拡大しています。2025年には以下のパートナーシップを発表しました。
- UPL(メキシコ)
- AgNova(オーストラリア)
- Koppert do Brasil(ブラジル:とうもろこし・大豆向け)
- Andermatt Group(東アフリカ)
- Susbin(アルゼンチン)
これらは、以前に結んだシンジェンタとのインドネシア稲類向けや、インド・インドネシアのイネ科害虫、タイでのアワノメイガ(fall armyworm)に関する協業、さらにインドでのGodrej Agrovetとの連携などに続く動きです。Proviviは現在、7カ国・5大陸で21件の政府登録を有し、社内で880件以上、パートナーと実施した試験が90件超と、実証データを積み上げています。
フェロモン防除の仕組みと特徴
フェロモンとは、昆虫が交尾相手を探すために放出する化学物質です。Proviviが提供するのは、この「性フェロモン」を利用した「交尾撹乱(mating disruption)」型の防除製品です。具体的には、対象害虫のオスが雌のフェロモン信号を識別できないほど圃場をフェロモンで飽和させ、交尾を阻害して個体群の繁殖を抑えることで、シーズンを通じて害虫密度を下げていきます。
主な利点は以下の通りです。
- 農薬抵抗性とは異なる「全く新しい作用機序」であるため、既存農薬の有効性を長持ちさせるのに貢献します。
- 標的特異性が高く、非標的生物や環境負荷が低い点で生態系・作業者安全の面で有利です。
- 製品によっては長い保存性(貯蔵可能期間)を持ち、現場で扱いやすいことが報告されています。
なぜこれまで高値作物向けだったのか、そして普及が進む理由
性フェロモンは化学合成にコストがかかるため、これまではブドウや果樹などの高付加価値作物での採用が中心でした。経済性の観点から、面積の大きな大豆やとうもろこし等の汎用作物では導入が難しかったのです。
しかし、Proviviは共同創業者らの研究とプラットフォーム技術により合成コストを引き下げ、行植型作物(row crops)でも実用的なコスト水準に近づけたとしています。これにより、大面積作物でもフェロモンによる管理が視野に入ってきました。
主要企業との協業が意味するもの
Proviviが大手農化メーカーと組む理由は明快です。大手は既に構築済みの販売網、マーケティング力、現地承認のノウハウを持っており、フェロモン製剤の地理的・作物的スケール拡大を短期間で実現できます。Provivi側はプラットフォームを通じて複数のフェロモンをスケール生産・製剤化し、パートナーは自社の戦略に合わせてターゲット害虫や作物を選ぶ──この両者の補完関係が普及を加速させています。
現場での導入にあたって知っておきたいポイント
営農法人や集落営農の現場管理者が導入を検討する際の実務的なチェックポイントをまとめます。
- 対象害虫の特定:フェロモンは種特異性が高く、まず対象害虫が明確であることが必須です。圃場での害虫モニタリングを正確に行ってください。
- 適用方法とタイミング:製剤によっては、ディスペンサー設置、散布、もしくはマイクロカプセル化製剤の散布など適用法が異なります。適切な時期(発生初期、幼虫期前など)に合わせることが効果を左右します。
- スケールと経済性:大面積での導入では単価と散布・設置の労務コストが重要です。パートナー企業やメーカーと共同で小規模試験を行い、コスト効果を確認することをおすすめします。
- 既存防除との組み合わせ:フェロモンは既存の殺虫剤と併用することで耐性管理(レジスタンス管理)に寄与します。IPM(統合的害虫管理)の一部として位置づけることが望ましいです。
- 法規制と登録状況:Proviviは複数国で登録を取得していますが、各国・地域での登録状況を確認してください。製品の承認・表示に従った使用が必要です。
期待される効果と留意点
期待できる効果は、長期的な害虫圧低減、農薬使用量の削減(結果的に生産コストや環境負荷の低減)、および作業者の安全性向上です。一方で留意点としては、以下があげられます。
- 高い種特異性ゆえに、圃場に複数種の害虫が混在する場合は単独では不十分なことがあります。
- 導入初期は設置・管理方法の習熟が必要で、適切なモニタリングや時期設定が不可欠です。
- 供給や物流、登録の遅延が地域ごとに生じる可能性があるため、サプライチェーンの確認が必要です。
現場への提言:まずはパイロットとパートナー連携を
Proviviの事例は、フェロモンを中心とした「新しい作用機序」を既存の大手流通網と組み合わせることでスピード感を持って普及させる好例です。営農法人や自治体の技術担当者は、まず小規模な圃場試験(オンファームトライアル)で効果と運用性を検証し、成功事例を基に段階的に展開することを検討してください。
また、ドローンや自動化機械を使ったモニタリング・散布、データ管理と組み合わせれば、フェロモン防除の導入効率を高めることが可能です。スマート農業との相性も良いため、IT導入を検討している現場ほど取り入れやすいソリューションと言えます。
まとめ
Proviviはプラットフォーム技術と主要パートナーとの協業により、フェロモンベースの作物保護を高付加価値作物から汎用作物へと拡大しつつあります。新たな作用機序としての価値、環境面・安全面での利点、既存農薬との相乗効果は、今後のIPM戦略において重要な選択肢になり得ます。営農現場では、対象害虫の特定、試験導入、パートナーとの連携を通じて段階的に検討することが現実的な第一歩になります。
(参考情報:Proviviの発表に基づく。2025年に複数地域でのパートナーシップ発表、現在21件の政府登録、880件以上の社内試験と90件超のパートナー試験を実施)
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
フェロモンを武器に普及加速──Provivi、世界的パートナー戦略で作物保護を拡大
https://agfundernews.com/provivi-sees-major-expansion-of-pheromone-based-crop-protection-via-corporate-partnerships
