阿根廷の老舗農機メーカー、Siemens Xceleratorでデジタル変革を加速—「Dómina」で実証した設計・生産革新

12/01/202512/06/2025

阿根廷の老舗農機メーカー、Siemens Xceleratorでデジタル変革を加速—「Dómina」で実証した設計・生産革新

アルゼンチンの農機メーカー、Crucianelli（クルチアネッリ）グループが、Siemensの産業向けソフトウェア群「Siemens Xcelerator」を導入し、製品企画から設計、製造、販売店網やアフターサービスまでを貫くデジタル変革を推進していると発表しました。狙いは「2030年までに世界トップ5のシーダー（種まき機）メーカーに入る」という成長戦略の実現です。日本の営農法人や農機メーカーにとっても示唆に富む事例ですので、そのポイントをわかりやすく解説します。

導入した主要ソフトウェアとその役割

Designcenter NX（CAD）：製品設計の中核。従来の設計プロセスをデジタル化し、部品設計やアセンブリ設計を効率化します。
Simcenter（シミュレーション）：構造・動力学・流体・耐久性などの予測シミュレーションを実行し、試作回数やフィールドテストを減らします。
Teamcenter（PLM）：設計データから生産、販売店での販売情報、アフターサービスまでをつなぐ「デジタルスレッド」を構築します。
Tecnomatix/Plant Simulation（デジタル製造）：組立ラインのシミュレーションと最適化により、2026年にアルゼンチン・アームストロングで予定する新製品Dóminaの生産ラインを設計しています。

実例：Dómina（ドミナ）に見るデジタル化の効果

DóminaはSiemensのソフトウェア群を使って設計された最新のシーダーです。輸送時は3.2m、作業時は8.5m／9.5m／10.5mの作業幅に切り替え可能という可搬性と作業効率の両立を実現しています。Crucianelli側の報告では、Siemens導入によって新製品の開発期間と試作・実地検証の回数が40％以上削減されたとされています。これは、設計段階で高度なシミュレーションを行い、デジタルツイン的な検証を進められたことが大きな要因です。

ビジネス全体に響く「エンドツーエンド」効果

Siemensの担当者も指摘するように、設計・エンジニアリングだけでなく生産やアフターサービスまで一貫してデジタルツールを適用すると、イノベーションの速度が上がり、よりスマートな意思決定や顧客体験の向上につながります。具体的には：

製品開発リードタイムの短縮（市場投入までの時間短縮）
試作費用・フィールドテストの削減
生産ラインの効率化と稼働率向上
販売店と本社をつなぐ情報共有でサービス品質が向上（アフターサービスの迅速化、部品供給の最適化）
国際展開時の規制対応や仕様管理が容易に

導入で直面する現場の課題と対策

こうした導入効果は魅力的ですが、実装にはいくつかの現実的なハードルがあります。現場管理者や営農法人の規模に応じた検討ポイントを整理します。

初期投資とランニングコスト：ソフトウェアライセンスや導入支援費用、専任人材の確保が必要です。段階的な導入やクラウド型の利用で負担を平準化できます。
人材育成と現場適応：設計者だけでなく、現場の製造・保守担当まで教育が必要です。ベンダーやSIerと連携したハンズオン研修が効果的です。
既存システムとの連携：既存のERPや販売管理システム、機械の制御系とデータ連携する設計が重要です。APIやミドルウェアを活用して段階的に統合します。
データガバナンスとセキュリティ：設計情報や顧客データを安全に管理する体制が必要です。アクセス権限やバックアップ方針を明確にします。

日本の営農法人・農機メーカーが学べること

Crucianelliの事例は、以下の点で日本の現場にも応用可能な示唆を与えます。

「部分最適」ではなく「全体最適」を目指す：設計、製造、販売、サービスをつなぐデジタルスレッドが競争力の源泉になります。
シミュレーション投資はプロトタイプ削減と市場投入速度の向上で回収可能です。特にシーダーや植付関連は精度が成果に直結します。
トランスファーしやすいノウハウは、販売店ネットワークを通じた現地適応（地域ごとの設定や保守）です。TeamcenterのようなPLMで統一すると展開が容易になります。

導入を検討する現場への実務的アドバイス

まずは小さなパイロットプロジェクトから開始し、効果を定量的に評価してください（例えば1製品ラインでの設計→生産まで）。
社外パートナー（Siemensのようなベンダー、地域のSIer）と早期に連携し、導入ロードマップと教育計画を策定してください。
シミュレーションは「壊れやすい・寿命が問題になる部位」や「稼働が生産性に直結する部分」から優先して適用してください。
販売店・メンテナンス網を巻き込んだ「デジタルデータ連携」を早めに整備し、現場での情報共有をスムーズにしてください。

まとめ — 「デジタル化」は規模を問わない差別化手段

CrucianelliのSiemens Xcelerator導入は、老舗メーカーが伝統と現代技術を両立させながら国際競争力を高める好例です。開発期間の短縮、試作削減、製造最適化、販売・保守までの一貫管理――これらは大手だけでなく、営農法人や中小の農機メーカーにも応用可能な戦略です。年月をかけた投資と人材育成が前提になりますが、早期に取り組むことで市場変化に強い製品とサービスを提供できるようになります。

導入に興味がある現場責任者の方は、まずは自社の「阻害要因（どの工程で時間とコストがかかっているか）」を明確にし、段階的なデジタル化計画を立てることをおすすめします。