バイオ除草剤の現状とこれから──「安くて効く」にたどり着けるか
除草剤耐性雑草の増加や化学物質に対する規制強化が進むなか、理屈上はバイオ除草剤(バイオハーブサイド)の普及が期待されています。しかし実際の成長率はバイオ農業資材全体の中でもやや出遅れており、その原因と今後の展望を分かりやすく整理します。営農現場の判断材料として、導入の実務的な示唆も併せて解説します。
なぜバイオ除草剤は期待されるのか
バイオ除草剤は微生物や植物由来の物質、さらには病害性菌や寄生植物など自然界の生物資源を活用して雑草を抑える製品群です。化学合成の除草剤に比べて非標的生物や環境へのリスクが低い可能性があり、特定の生理プロセスを狙うため抵抗性の管理に寄与することが期待されます。
背景には世界的な雑草の除草剤耐性の拡大があります。最近の推定では、世界で500件以上のユニークな耐性事例が報告され、31の作用点のうち21に対して抵抗性が確認されるなど、従来薬剤だけでは管理が難しくなっている現状があります。
伸び悩む主因:コストとフィールドでの有効性
もっとも大きな障壁は「コスト対効果」です。ワールドワイドで広く使われるグリホサートのような合成除草剤は、作付け面積当たりのコストが非常に低く(おおよそ1エーカーあたり10ドル未満の例がある)、この低価格帯に競合できるバイオ製品を作るのが難しいのです。生物資材のスケールアップと原価低減は依然として大きな課題です。
加えて、野外条件で安定して「しっかり効く」製品を見つけるのが難しい点も指摘されています。自然由来の物質は多様ですが、同時に人や家畜・野生生物に有害となるものも存在し、利用可能な候補をそのまま現場で使える形にするには工夫が必要です。
注目の技術トレンド:増幅剤(amplifiers)とAI活用
有望なアプローチの一つが「バイオロジカル・アンプ(増幅剤)」です。単独では除草活性を示さないものの、合成除草剤と併用することで効力を強め、結果的に合成薬剤の使用量を下げられる可能性があります。Moa Technologyは独自のスクリーニングで多数の新規作用機序(MoA)を探索し、この種の増幅剤候補を見出しています。実際に農業サービス企業と共同で特定有効成分向けの増幅剤開発を進めるケースも出てきています。
もう一つの追い風がAI・機械学習やゲノムマイニング、バイオインフォマティクスなどのデジタルツールです。これらは膨大な候補化合物や微生物資源の中から有望なシグナルを短期間で抽出するのに力を発揮します。MicropepやほかのスタートアップはAIを使った探索プラットフォームで発見のスピードを上げようとしています。
現場で成果を上げている事例:小規模農家向けのマイコハーブサイド
地域ニーズに応じた成功例もあります。ケニア発の「The Toothpick Project」は、土壌に常在する真菌 Fusarium oxysporum を利用したマイコハーブサイドの実証を進めています。Striga(高名な寄生雑草)対策として、培養菌を木製爪楊枝に移して現地の小規模農家に配布し、米やトウモロコシの種と一緒に植えられる形で利用されてきました。最近は種子コーティング型の安定化製剤も開発され、村のアグロベット店やNGOを通じた流通拡大が可能になってきています。
この取り組みは、合成除草剤が高価で現実的でない地域にとって有効な解決策となっています。グローバル・イノベーション・ファンドの支援も受け、ナイジェリアやタンザニアなどStriga被害の深刻な地域への展開を目指しています。
産業界のプレーヤーと多様なアプローチ
バイオ除草剤分野には、Moa TechnologyやThe Toothpick Projectのほかにも多様なアプローチを取る企業が存在します。BindBridgeは「分子グルー」を使ってタンパク質間相互作用を誘導する方向、MicroMGxは微生物由来の代謝物を探索、WeedOutは雑草の開花期に花粉を用いて不稔化させる新奇な手法を検証中です。こうした多様な技術が並行して進むことで適用可能な作物・地域・問題が増えていく見込みです。
導入を検討する現場への実務的アドバイス
営農法人や現場管理者が今からできる準備と検討ポイントをまとめます。
- フィールド試験での評価:小区画での現地試験を行い、気象・土壌・作型での再現性を確認してください。
- 費用対効果の比較:製品単価だけでなく、適用回数、適用機材、人件費を含めたトータルコストで比較してください。
- 保管・取扱い要件の確認:生物製剤は温度管理や消費期限が厳しい場合があります。サプライチェーンを確認してください。
- 統合雑草管理(IWM)との組み合わせ:バイオ製剤は単独で万能ではありません。被害の予防(播種期管理、被覆作物、土壌改良)、機械的除草、薬剤ローテーションと組み合わせることで効果を高められます。
- デジタルツールの活用:ドローンやリモートセンシングで雑草の分布を把握し、スポット処理で投入量を抑えることでコスト競争力を高められます。
- 研究機関・メーカーとの協働:オンファーム試験の支援や補助金情報を活用し、段階的に導入を進めてください。
自治体・メーカー技術担当者への示唆
自治体や農機メーカーとしては、以下の点が重要になります。
- 規制と承認プロセスの整備:生物由来製剤の評価基準や現場でのガイドライン整備は普及の鍵です。
- 混用・適用技術の開発:生物剤を安定して散布できるフォーミュレーション、タンク混用の安全性やドローン・無人機での散布技術はニーズが高い分野です。
- スケールアップ支援:発見→製造→流通の各段階で産学官の連携支援を強化することが重要です。
結論:万能薬ではないが「使いどころ」は広がる
現時点でバイオ除草剤は低コストの合成除草剤と直接価格競争するには厳しいのが実情です。しかし、増幅剤やAIを用いた探索、マイコハーブサイドの地域適応、ドローンや精密農業を組み合わせたスポット処理などの進展により、次の数年で適用範囲は着実に広がると見られます。
特に次の点が普及の鍵になります:合成薬剤とのハイブリッド運用、現場で安定して効く製剤の実証、そしてコストを下げるための製造・供給体制の整備です。営農法人や自治体、メーカーが協力してパイロット導入や規制整備を進めれば、耐性雑草問題への新たな解の一つとしてバイオ除草剤がより現実的な選択肢になっていくはずです。
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
バイオ除草剤の現状とこれから──「安くて効く」にたどり着けるか
https://agfundernews.com/wheres-the-progress-in-bioherbicide-development-industry-players-weigh-in
