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「Agtechは死んだ。万歳、システムだ」──農業を“箱”で見るな、システムで動かせ

「Agtechは死んだ。万歳、システムだ」──農業を“箱”で見るな、システムで動かせ

海外メディアAgFunderNewsに寄稿されたMark S. Brooks氏の論考「Agtech is dead. Long live the system」を要約し、日本の現場に向けて解説します。氏は「アグテック(Agtech)を個別分野の集合として見るのは限界であり、農業はむしろ社会・経済・技術が絡み合う“オペレーティング・システム”だ」と主張します。営農法人や集落営農、農機メーカー、自治体の技術担当者にとって、単一製品の改善だけでは市場は動かず、資本・基準・流通・リスク移転といった“レバー”を動かすプレーヤーこそが未来をつくる、という示唆があります。

目次

農業は“セクター”ではなく、社会の基盤となるシステムである

Brooks氏は、農業を単なる産業区分として扱うのではなく、人類が不確実性を秩序へ変えるために発達させてきた「初のオペレーティング・システム」と定義しています。作物や家畜は食料だけでなく、飼料、燃料、原材料、製薬原料など多用途に関わり、土地・水・炭素・貿易・資金の流れを支えます。

日本の文脈では、米作・畜産のサプライチェーン、JA等の共同流通・金融機能、農業用水や土地利用の制約がまさにシステムの一部です。さらに、衛生・バイオセキュリティ(家畜由来感染症対策)、バイオマス・再生可能資源、カーボン・クレジットの計測(MRV)といった分野が、農業の内外で密接に連動しています。

AgOS(AgTech Operating System)フレームワーク:どのレバーを誰が握るかを見る

Brooks氏が提唱するAgOSは、農業システムを動かす「パワーセンター(意思決定ノード)」と、「レバー(制御手段)」のマトリクスで市場の動きを読み解く枠組みです。

  • パワーセンターの例: ベンチャーキャピタル/コーポレートVC、トレーダー、農資材大手、協同組合(JA等)、小売、カーボンプラットフォーム、規制当局、再保険会社、農業金融機関、データ/AIプラットフォーム
  • レバーの例: 資本コスト(融資・投資条件)、リスク移転(保険・再保険・ヘッジ)、流通とアクセス(販路・共同購入)、基準・承認(規格・認証)、データ権・相互運用性(MRVや標準データフォーマット)

重要なのは、単一の技術や製品が一つの“箱”で完結することは稀で、複数のレバーを同時に動かせるプレーヤーが市場を変える、という点です。たとえば、センサーで効率化するだけでなく、そのデータを担保にした融資やカーボンクレジットに結びつけることで、採用が加速します。

現場への示唆:スタートアップ、投資家、経営者それぞれに必要な行動

スタートアップ(創業者)へ

  • 「製品を作って売る」だけで終わらせないこと。自社技術がどのレバー(資金、流通、保険、基準)を動かすのか明確にすることが重要です。
  • 現場での価値を複数ステークホルダーに提供する設計にする。農家だけでなく、卸・小売、金融機関、保険会社、規制当局が得するモデルを描くと市場導入が早くなります。
  • データの相互運用性(標準化)とデータ権の整理を初期から設計する。MRV準拠やカーボン市場への対応は採用の後押しになります。

投資家へ

  • 投資判断は技術の優劣だけでなく、「どのレバーを誰とどう動かすのか」を評価することが差別化要因です。
  • 資本構成(エクイティ、デット、補助金、オフテイク契約など)をレバーに合わせて設計する。たとえば流通を握る企業と共同投資することで時間軸を圧縮できます。
  • トレーダー、協同組合、農資材大手、CVCなど“市場を動かせる”プレーヤーのパートナーシップがあるチームを優先することが有利です。

経営者/取締役会へ

  • 自社を「箱の最適化」だけに止めるのか、システムの再配線(流通、標準、金融スキームの再設計)まで手がけるのか、経営の意思決定が問われます。
  • 大手は分散型スタートアップと連携しつつ、自社の市場支配力(流通網、ブランド、資本力)を使ってレバーを組み合わせる動きを検討すべきです。
  • 規制・政策の動きをモニターし、標準化や認証プロセスに関与することで市場ルールを形作る役割を担えます。

日本の現場で実行可能な具体策(チェックリスト)

  • ステークホルダーマップを作る:誰が資金を出し、誰がリスクを負い、誰が販売経路を持つかを可視化する
  • レバーを特定する:自社技術は「コスト削減」「流通アクセス」「保険適合」「データ資産化」のうちどれを動かすかを明確にする
  • JAや地域の協同組合とパイロット連携を組む:導入・普及の速度を上げるには協同組合経由の導入が有効です
  • 金融機関・リース会社と連動する収益モデルを設計する:IoTデータを担保にした設備リースや作付けローン設計を検討する
  • 保険・再保険と協働したリスク移転スキームを模索する:天候インデックス保険や収量連動型商品など
  • MRV対応のデータ体制を整える:カーボンやESGの市場参入を視野に入れた計測・報告の標準化
  • データの権利と相互運用性を契約で定義する:サードパーティとの連携をスムーズにするための共通フォーマット採用

結論:次の勝者は「製品」ではなく「システム」を動かす者

Brooks氏の結論は明快です。より優れた単体製品を作るだけでは足りず、資本・規格・流通・リスクのレバーを同時に動かしてシステム全体を再配線できるプレーヤーが勝つ、ということです。日本の営農法人や集落営農、農機メーカー、自治体の技術担当者にとっては、地元の協同組合や金融機関、保険会社、規制当局とどう連携してレバーを握るかが、次の投資・事業戦略の核心になります。

現場でできる第一歩は、自分たちの技術やサービスがどの「レバー」を動かせるかを明確にし、それに合った資本構成やパートナーを早期に固めることです。単なる「良い道具」から脱し、システムを動かすための設計と交渉を始めましょう。

(原文:Mark S. Brooks「Guest article: Agtech is dead. Long live the system」AgFunderNews を基に要約・解説しました)

詳しい記事の内容はこちらから(引用元)

「Agtechは死んだ。万歳、システムだ」──農業を“箱”で見るな、システムで動かせ
https://agfundernews.com/guest-article-agtech-is-dead-long-live-the-system

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