ナイジェリア、年間最大100億ドルを収穫後ロスで損失 — 農業の変革とアグリテックの出番
ナイジェリアの農業分野が毎年最大100億ドル(約1兆数千億円)もの収穫後ロスに悩まされていることが明らかになりました。西アフリカ最大級のパイナップル農場を運営するアグリテック企業のCEO、Segun Alabi氏が首都アブジャで記者団に語った内容をもとに、現状と現場で取れる具体策、アグリテックが果たす役割を整理します。
現状の把握:何がどれだけ失われているのか
Alabi氏によれば、ナイジェリアでは収穫量の30〜50%が収穫後に失われており、その経済損失は年間最大で100億ドルに達すると推定されています。主な原因は以下の通りです。
- 収穫方法の不適切さ(適切な収穫時期や取り扱いの欠如)
- 保管設備の不足および非効率(冷蔵・乾燥設備の欠如、サイロ不足)
- 輸送インフラの劣悪さ(道路未整備、冷蔵輸送の欠如)
- 加工能力の不足(現地での付加価値化が進んでいない)
これらが重なり合い、農家の収入縮小、食料安全保障の弱体化、国全体の成長鈍化につながっています。
現場で効果が見込める具体的対策
被害を減らし、生産物の付加価値を高めるために、比較的導入しやすいものから大型投資まで様々な対策が有効です。ここでは現場目線で実行性の高い項目を挙げます。
短期で着手できる取り組み
- 太陽熱式ドライヤーやバッチ式の小型乾燥機による乾燥管理で果実・野菜の劣化を抑制する
- ハーベストバッグやヘルメティック(密閉)保存袋で穀物害虫や湿気を抑える
- 農家向けの収穫・取り扱いトレーニング(適切な選別、冷却前処理)を実施する
- モバイルアプリやSMSによる需給情報の即時共有で過剰収穫や市場混乱を緩和する
中期〜長期で必要な投資
- 地域分散型のコールドチェーンノード(太陽電池併設の冷蔵庫、コールドトラックの共有化)
- 穀物用サイロや温湿度管理可能な倉庫の整備
- 小規模〜中規模の現地加工施設(乾燥、缶詰、ジュース、濃縮加工)による付加価値化
- 地方の道路整備や物流ハブ整備による輸送時間短縮
アグリテックが果たす役割:技術で“見える化”と最適化を
収穫後管理は単なるハードウェア整備だけでなく、データ駆動の管理で大きく改善できます。導入が有望なテクノロジーは次の通りです。
- IoTセンサー:保管庫や輸送コンテナの温度・湿度の遠隔監視で劣化リスクを可視化します。
- コールドチェーン追跡:GPSとテレメトリで冷蔵輸送の温度維持と遅延を管理します。
- AI予測と需給マッチング:需要予測や収穫タイミングの最適化で過剰在庫や廃棄を削減します。
- コンピュータビジョン:選別・等級付けの自動化で人手によるロスを減らし品質を均一化します。
- ドローン・リモートセンシング:収穫時期の判定、畑の状態把握、収量推定により適切な収穫計画を支援します(物理輸送としてのドローン活用はまだ限定的ですが、監視・診断で即効性があります)。
これらを統合するプラットフォーム(SaaS型のポータル)を通じて、農家、集荷業者、加工業者、輸出業者が情報を共有することが重要です。
ビジネスチャンス:廃棄物を資源に変える
収穫後ロスの削減は単に損失を抑えるだけでなく、地域経済の新たな収益源を生み出します。具体例として以下があります。
- コンポスト・有機肥料の生産:家庭や営農への還元で化学肥料依存を軽減します。
- 飼料化:品質基準を満たせる形で農産廃棄物を家畜飼料へ転換します。
- バイオエネルギー(バイオガス):発電や調理用燃料に転用し、エネルギー自給率を高めます。
- バイオプラスチックや素材の素材化:高度な技術・投資は必要ですが高付加価値化の道があります。
これらは新たな雇用を生み、地方での起業機会を拡大します。特に分散型の小規模処理拠点は高い潜在性を持ちます。
政策と実装上のポイント
Alabi氏が指摘するように、政府のリーダーシップと政策支援が不可欠です。実装を成功させるためのポイントは次の通りです。
- 公共投資と民間資本の組合せ(PPP)で冷蔵設備や加工ハブを整備する
- 税制優遇や補助金で初期コストの壁を下げる
- 道路や電力など基盤インフラを優先的に改善する
- 農家への教育・延長サービスを拡充し、技術導入後の運用を担保する
- 品質・衛生基準を整備して輸出基盤を強化する
導入ロードマップ(現場視点)
- 短期(1年):農家トレーニング、太陽熱ドライヤー配備、ヘルメティック保存袋導入、需給情報のモバイル共有
- 中期(2〜4年):地域コールドチェーンノード設置、分散型加工ユニット建設、IoTセンサーの導入拡大
- 長期(5年〜):全国的な冷蔵・物流ネットワークの構築、輸出向け品質管理体制の確立、廃棄物循環型産業の拡大
まとめ:今こそ投資と連携で「失われる価値」を取り戻す時
ナイジェリアが毎年失っている数十〜100億ドル規模の価値は、適切に管理・投資すれば生産性向上・雇用創出・輸出拡大につながる潜在力そのものです。保管・輸送・加工という収穫後バリューチェーンに対する戦略的投資と、アグリテックによるデータドリブンな管理が合わされば、農家の所得改善と国の経済成長の両方が実現します。
Davidorlah社のSegun Alabi氏が述べるように、「年間失われる額は適切に扱えば価値創造の原資になる」ため、政府、民間、現場が協働して一刻も早く取り組みを進める必要があります。日本の農機メーカーやアグリテック事業者にも、技術・サービス提供の面で重要な役割が期待されます。
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
ナイジェリア、年間最大100億ドルを収穫後ロスで損失 — 農業の変革とアグリテックの出番
https://agritechdigest.com/nigeria-loses-up-to-10-billion-annually-to-post-harvest-waste/