FPTがAgritechnicaで存在感──New Hollandの新型機を支える次世代パワートレインを解説
ヨーロッパ最大の農業機械見本市Agritechnicaで、FPT(Iveco Groupのパワートレインブランド)がNew Hollandの新製品群の“心臓部”として注目を集めました。今回発表されたのは、ハイブリッド化を見据えた小型エンジンから、180〜435hpクラスをカバーするラインアップまで、現場の実需に応える設計思想が貫かれた構成です。本稿では、それぞれのエンジンと機械に焦点を当て、営農現場での導入検討に役立つ視点で解説します。
注目ポイントの概略
- F28 Hybrid:2.8L天然ガス+高電圧e-driveによるハイブリッド仕様のプロトタイプテレハンドラ。モジュール式で既存の大排気量ディーゼルと入れ替え可能。
- N67(NEF 6.7相当):T7 Standard Wheelbase(180–225hp)向けの6気筒中速エンジン。燃費と信頼性を両立。
- CURSOR 9:T7 XD(360–435hp)向けの8.7Lフラッグシップエンジン。高出力ながらコンパクト設計で高い燃費性能とメンテナンス性を提供。
F28 Hybrid:モジュール性と現場に即した持続可能性
最も目を引くのは、New Hollandの「Hybrid Prototype Telehandler」を駆動するFPTのF28 Hybridです。2.8リットルの4気筒天然ガスエンジンに、オンアクシスで統合された高電圧e-driveを組み合わせた設計で、いわば“ハイブリッド化用の標準モジュール”を目指しています。
主な特徴と現場への利点
- プラグ&プレイ型のモジュール設計で、より大きなディーゼルと交換可能。既存プラットフォームのハイブリッド化や将来的な仕様変更に柔軟に対応できます。
- 最大75kWの電力を供給し、荷役応答性の改善、燃料消費低減、排出削減を実現します。
- 運転振動・騒音が低減され、作業者の快適性と機械信頼性が向上します。
- 現場の再生可能エネルギー(太陽光、バイオガス由来の圧縮天然ガスなど)でバッテリーを充電できれば、稼働のカーボンフットプリントを大きく下げられます。
- フィールドテストでは、エネルギー消費で最大70%の削減、性能面で30%の改善を示したとされています(機種・条件による)。
F28 Hybrid 技術仕様(抜粋)
- 認証:Stage V
- 気筒/バルブ:4 / 4
- 排気量:2.8 L
- 最大出力:75 kW @ 2300 rpm(電力側)
- 最大トルク:415 Nm @ 1500 rpm
- 燃料・後処理:天然ガス/三元触媒(ATS)
N67:T7 Standard Wheelbase向けの“仕事馬”
中型トラクタ領域(180〜225hp)を担う新しいT7 SWBシリーズには、FPTのN67(6.7LクラスのNEF系)エンジンが搭載されています。高出力・高トルクと、FPTのHI-eSCR2という独自の排ガス後処理技術を組み合わせ、EGRフリーの燃焼設計で燃費と信頼性を両立します。
現場で評価すべきポイント
- 燃費性能:DLG PowerMixの燃費ベンチマークで高評価を得ており、燃料コスト低減に直結します。
- メンテ性:拡張されたサービス間隔(モデルにより異なります)とEGRフリーアーキテクチャにより、保守作業がシンプルになります。
- 機械設計:2,789mmのホイールベースを維持しつつ、車両総重量や積載能力を増やしており、汎用性と耐荷重性を両立します。
N67(T7 SWB向け) 技術仕様(抜粋)
- 認証:Stage V / Tier 4F
- 気筒/バルブ:6 / 4
- 排気量:6.7 L
- 最大出力:166 kW (約225 hp) @ 1600 rpm
- 最大トルク:1063 Nm @ 1300 rpm
- 後処理:Hi-eSCR2(EGRフリーを補完する後処理)
CURSOR 9:大規模営農・請負作業向けの高出力ソリューション
T7 XDシリーズ(360〜435hp)に搭載されるCURSOR 9は、8.7リットルの6気筒エンジンで、高い出力をコンパクトに実現することを目標に設計されています。電子可変ジオメトリーターボ(eVGT)や高圧コモンレールを採用し、低回転域からのトルク特性と燃費を両立させています。
実務でのアドバンテージ
- 大規模圃場や重作業で必要な持続的な出力を確保しつつ、狭い作業路でも扱える狭幅プロファイルを実現しています。
- 680Lの燃料タンク(従来比13%増)や750時間のサービス間隔により、作業効率と稼働率を向上させます。
- EGRを使わない成熟したアーキテクチャとHI-eSCR2後処理で、厳しい排出規制への対応とオペレーションコストの低減を両立します。
CURSOR 9(T7 XD向け) 技術仕様(抜粋)
- 認証:Stage V / Tier 4F
- 気筒/バルブ:6 / 4
- 排気量:8.7 L
- 最大出力:321 kW @ 1800 rpm
- 最大トルク:1851 Nm @ 1400 rpm
- ターボチャージャー:電子可変ジオメトリーターボ(eVGT)
導入を検討する際の実務的チェックリスト
新しいパワートレインを選ぶ際は、単に出力や燃費だけでなく、現場の運用条件やエネルギーインフラ、メンテ体制を総合的に評価することが重要です。以下は現場責任者が押さえておきたいポイントです。
- 作業サイクル:短時間で高出力が必要か、長時間の定常運転が多いかにより、ハイブリッドと純ディーゼルの適性が異なります。
- 燃料と電力の供給インフラ:天然ガス(圧縮天然ガスやバイオガス)の調達や、太陽光などでのバッテリー充電が現実的か。
- ディーラとサービス網:Stage V対応機器のメンテナンス経験や部品供給の体制は重要です。
- トータルコスト(TCO):購入価格だけでなく燃料費、メンテナンス、稼働率、残価を含めた長期コストを試算してください。
- 研修と安全管理:高電圧システムや天然ガス系統の保守には専用の知識が必要です。導入時に研修計画を立てることを推奨します。
まとめ:選択肢が広がることの意味
FPTとNew Hollandの協業から示されたのは、単に「より強い」「より燃費の良い」機械を投入するという以上に、現場のエネルギー源や運用形態に合わせて最適化できる多様なパワートレインの提供です。ハイブリッド+天然ガスの組合せは、再生可能エネルギーを組み合わせることで実際のCO2削減に直結する可能性がありますし、CURSOR 9のような高出力機は大規模営農や請負作業の生産性を高めます。
導入を検討する際には、まず自社の作業内容とエネルギー供給の現状を整理し、ディーラや技術担当と具体的なTCO試算と試乗・テストを行うことをおすすめします。詳細な技術仕様はFPTの公式ウェブサイトやNew Hollandの販売代理店で確認できますので、実機デモの依頼や質問はそちらにお問い合わせください。
(取材・執筆:アグニュー編集部)
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
FPTがAgritechnicaで存在感──New Hollandの新型機を支える次世代パワートレインを解説
https://www.agritechmag.com/news/103200-powering-progress-fpt-supports-new-holland-launches-at-agritechnica
