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タイ発・太陽光駆動のリアルタイム水質監視システムが示す沿岸農業の新しい盾





タイ発・太陽光駆動のリアルタイム水質監視システムが示す沿岸農業の新しい盾 — アグニュー

タイ発・太陽光駆動のリアルタイム水質監視システムが示す沿岸農業の新しい盾

沿岸域で営まれる農業にとって、見えない敵「海水侵入(塩水化)」は深刻な脅威です。タイ・チョンブリ県の潅漑運河で実証された、太陽光駆動のリアルタイム水質監視・制御システムに関する最新研究(Desalination and Water Treatment掲載)は、現場で使える「自動の見張り」として注目に値します。本稿では研究の要点と、国内の営農現場での導入可能性・運用上の留意点を分かりやすく解説します。

目次

何が開発されたのか:システムの中身

カセサート大学(バンコク)環境工学のPongsakon Pimpanit氏らのチームは、汽水(しょっぱさが変動する運河)向けに次の要素を組み合わせたシステムを開発しました。

  • 多検量項センサー:溶存酸素(DO)、塩分(salinity)、水温、pHを連続計測
  • 太陽光発電+バッテリー:遠隔地での継続運用を想定。現地では日照4時間で満充電を確認
  • 無線データ送信:リアルタイムで監視データを送信し、遠隔監視・解析を可能に
  • 自動制御アルゴリズム:塩分が設定閾値(現地では30 ppt)を超えるとポンプを停止、正常化したら再稼働

この組み合わせにより、人手に頼らず「その場で止める、または流す」といった意思決定を自動化しています。

現地試験の結果:30日間の運用で確認された性能

タイのSukreep運河で行われた30日間のフィールド試験では、以下が実地で確認されました。

  • センサー精度が維持され、計測データは安定していたこと
  • 太陽光バッテリーが日照約4時間で満充電に達したこと(継続運用に十分な蓄電)
  • 無線通信は安定し、リアルタイム監視が可能であったこと
  • 塩分が30 pptを超えた際にポンプが自動停止し、塩分が下がると再稼働する制御が有効に作動したこと

また、温度・pH・DOは農業利用上の許容範囲に収まっていたとレポートされています。

農業現場にもたらす意義

沿岸域の地下水や運河水が塩化すると、土壌塩類化が進行し、作物の生育不良や収量低下を招きます。今回のシステムは次の点で営農に貢献します。

  • リアルタイムでの判断により、塩分の高い水をポンプで取り込む前に自動停止できるため、土壌被害を未然に防げます。
  • 無駄な揚水を減らせるため、エネルギーコストの削減と地下水の保全につながります。
  • モジュール化された設計により、地域・規模に合わせたスケール調整が可能であり、集落営農や営農法人のシステム化に適しています。

日本の沿岸農業での適用を考えるときのポイント

研究の成果は有望ですが、そのまま導入するだけで済まない点もあります。特に日本の営農現場で検討する際には以下の点を確認・準備することをおすすめします。

  • 作物ごとの閾値設定:研究では塩分の停止閾値を30 pptに設定しましたが、多くの作物はこれより低い塩分でも生育に影響を受けます。稲や園芸作物の塩害閾値に応じて閾値をカスタマイズしてください。
  • センサーの保守とキャリブレーション:現場では藻類や沈殿による汚れ(バイオファウリング)が問題になりやすく、定期的な清掃と校正が不可欠です。保守頻度と担当者をあらかじめ決める必要があります。
  • 電力設計(冗長化):太陽光は有効ですが、長雨や曇天が続く季節もあります。バッテリー容量の余裕や必要に応じたグリッド/ジェネレーターの補助を検討してください。
  • 通信の選定:現地での通信は、携帯回線、LPWA(例:LoRaWAN)など複数の選択肢があります。電波環境や送信頻度、データ量に応じて最適な方式を選択してください。
  • 制御系の安全策:自動停止だけでなく、異常時のアラート送信や有人による復帰操作、フェイルセーフ(安全側動作)を設けることが重要です。
  • データ運用と権限管理:データの保存場所(クラウド・オンプレ)、データ所有権、自治体や営農者間での共有ルールを明確にしておく必要があります。

導入に向けた実務的なステップ(チェックリスト)

  1. 対象水系の現状把握(塩化リスク、潮汐影響、揚水スケジュール)を行う。
  2. 試験導入用の小規模パイロットを設定し、現地データを1〜3ヶ月取得する。
  3. 取得データを基に、作物別閾値と制御ロジックを設計する。
  4. 保守体制(清掃・校正・バッテリー点検)と担い手を決める。
  5. 運用ルール(自動制御の条件、手動介入のルール、データ共有)を関係者で合意する。

将来展望:AIと統合すればさらに強力になる

今回のシステムはリアルタイムのセンシングと自動制御を示しましたが、これに気象予測、潮汐予測、地下水位モデル、作物の生育ステージ情報を組み合わせることで、より予防的な管理が可能になります。AIを用いて「いつ揚水を止めるか/再開するか」を予測し、最小限の停止で塩害リスクを抑える運用が期待できます。自治体や営農法人が共同してデータを蓄積すれば、地域単位の最適化も実現できます。

まとめ

タイの研究が示した太陽光駆動のリアルタイム水質監視・制御システムは、沿岸域の塩害対策として有望なソリューションです。日本の沿岸農業でも、作物特性に応じた閾値設定、保守体制の確立、通信・電源の冗長化を行えば、効果的に導入できます。地域ごとのパイロットを経てスケールアップすることで、持続可能な水資源管理と営農の安定化に貢献するでしょう。

参考:Pongsakon Pimpanit et al., “Solar-powered real-time water quality monitoring and control system for brackish canals”, Desalination and Water Treatment.

執筆:アグニュー編集部


詳しい記事の内容はこちらから(引用元)

タイ発・太陽光駆動のリアルタイム水質監視システムが示す沿岸農業の新しい盾
https://agritechinsights.com/index.php/2025/11/05/thailands-solar-powered-shield-real-time-water-guardians-for-farming/

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