タイ農業省、スマート農業拡大へ「スマートアグリ基金」創設 AI・IoTで生産効率の倍増を目指す
2025年11月05日
タイ農業・協同組合省(MOAC)は、AIやIoTを活用したスマート農業を全国規模で普及させるため、新たに「スマートアグリ基金」を創設すると発表しました。初年度の予算は50億バーツにのぼり、灌漑制御、センサー技術、ドローン、精密肥料散布などへの導入支援を組み合わせて、2030年までに農業生産性を2倍にすることを目標としています。
基金の仕組みと運用体制
このスマートアグリ基金は、補助金と無利子融資を組み合わせた形態で運用される予定です。具体的には各県にある農業・農業協同組合銀行(BAAC)が資金の配分と運用を担い、現場への導入支援や返済管理を行います。初年度のモデル地域としてチャイナート、ナコンサワン、スリンの3県が指定され、コメ、トウモロコシ、果樹の現場にAIを用いたデータ分析とスマート機器の導入を進める計画です。
支援対象技術と期待される効果
支援対象となる技術は以下の通りです。
- 土壌・気象・水位などを測るスマートセンサー
- 自動灌漑システム(センシングに基づく最適灌漑)
- ドローンによる圃場観測および精密農薬・肥料散布
- AIを活用した作物生育予測・病害診断・施肥設計
- 自動収穫ロボットなどの自動化機器
政府資料によれば、スマートセンサーの活用により灌漑コストを最大30%削減、収穫量は平均で18%増加するという試算が示されています。高齢化が進むタイの農業現場(平均年齢54歳、労働人口比率28%)において、自動化とデジタル化は生産性向上と人手不足解消の双方で重要な役割を果たすと見られます。
投資優遇と産業促進の連携
農業省は投資委員会(BOI)と連携し、スマート農業関連機器の導入を後押しするための優遇措置を強化します。具体的には、輸入機械の関税免除や法人税の控除などを適用し、国内での機器製造や関連サービスの拡大を目指します。これにより、機器の調達コストや導入コストの低減が期待されます。
研究開発と民間連携の動き
民間・学術の連携も活発化しています。カセサート大学とHuawei Thailandは共同で「AIファームラボ」を設立し、作物データの解析や自動収穫ロボットの開発を進めています。こうした取り組みは現場での実証試験や人材育成、技術移転に直結するため、地方の営農法人や機械メーカーにとっても協業の好機となります。
現場にとっての意味合い——営農法人・個人農家はどう動くべきか
今回の基金・優遇策は、資金面での導入障壁を下げる一方で、成功には技術の選択・運用・保守体制づくりが不可欠です。営農法人や集落営農、個人農家の現場管理者向けに、実務的なアクションプランを整理します。
- 現状把握と優先投資の決定:圃場ごとの生産ボトルネック(灌漑、水管理、病害、収穫負担など)を洗い出し、投資効果の高い領域から段階的に導入します。
- パイロット導入とデータ取得:まずは小規模な圃場でセンサー+クラウド解析のパイロットを行い、投資回収期間や保守性を検証します。
- 人材育成と運用体制:機器の管理・データ解析担当を明確にし、地域の技術支援機関や大学と連携して研修を実施します。
- 資金調達の活用:基金の補助金や無利子融資、BOIの優遇措置を組み合わせて初期投資を抑えます。詳細は各県のBAAC窓口や農業省の公表資料を確認します。
- メーカー・サービス事業者との協業:センサーやドローン、ソフトウェアを提供する事業者とメンテナンス契約やデータ共有の枠組みを事前に取り決めます。
機械メーカー・システムベンダーへの示唆
基金とBOIの優遇措置は、国内外の機械メーカーやソリューションプロバイダーにとって大きな市場機会を示唆します。特に以下の点が重要です。
- 耐久性・保守性を重視した製品設計:農村部での長期運用を見据えた簡易な遠隔診断や交換部品の供給網が評価されます。
- 地域ニーズに合わせたソリューション:小区画農地や混作圃場に適した小型ドローンや安価なセンサーパッケージの需要が高まります。
- データ活用サービスの提供:収量予測、施肥最適化、病害予測など農家に直結する成果を示せる解析サービスが競争力になります。
リスクと課題
期待が大きい一方で、次のような課題も無視できません。
- 通信インフラの未整備:リモート圃場でのセンサーデータ送信の安定化が必要です。
- 人材不足と教育:機器の保守やデータ解析を担う現場人材の育成が追いつかない可能性があります。
- データの扱いとプライバシー:収集された農地データの利用権や共有ルールを明確にする制度設計が求められます。
- 初期投資回収の不確実性:導入効果は圃場や作目で差が出るため、ROIを慎重に評価する必要があります。
今後の見通しとアクションポイント
政府は2025年以降、段階的にモデル地域での実証を拡大し、成功事例を全国展開していく考えです。営農法人や自治体、農機メーカーは次の点を優先的に検討するとよいでしょう。
- 地域のBAACや農業省窓口で基金の詳細スケジュールと申請条件を確認する。
- 大学や研究機関、民間ベンダーが実施する実証プロジェクトに参加し、現場でのノウハウを蓄積する。
- 小さな成功を重ねる「段階的導入」戦略でリスクを抑えつつ機器・運用体制を整備する。
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
【IT】農業省、スマート農業拡大へ新基金 AI・IoT導入で生産効率2倍目指す
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