かんきつ類のドローン防除普及に不可欠なのは「地元パイロット」──オプティムのアグリポンで見えた現場のリアル
2025年6月に株式会社オプティムが立ち上げた「アグリポン かんきつ類ドローン防除サービス」は、地域の農家が共同で防除作業を委託することで単価を抑え、効率的にドローン散布を実現する請負サービスです。全国のドローンパイロットと連携し、地元でのパイロット創出・定着をライセンス取得から機材貸与、遠隔サポートまで含めて支援する点が特徴です。
現場の声:地域に根ざすパイロットがカギ
今回は、近畿エリアで実際にタッグを組んで有田市の現場を支えたドローンパイロット、田邉理人さん(株式会社Med-Bridge/近畿地方エリアマネージャー)と、地元有田市出身で新人パイロットの東林真衣さんに話をうかがいました。
田邉理人さん(ドローン農業・空撮)
もともと生鮮市場や直売所で流通現場に携わり、写真好きが高じてドローンに転身した経歴を持ちます。現在は滋賀を中心に関西でドローン農業の請負を行い、空撮から防除まで幅広く手がけています。
東林真衣さん(地元有田市・新人パイロット)
有田市のみかん農家の3代目。祖父の他界を経て、仕事と両立しながら家業を守ってきた経験から「体力的にきつい防除を代替したい」との思いでパイロットを志しました。東林さんは「私が全部撒けるからお父さんは休んでいていいよ」と言える存在になりたいと語っています。
なぜ「地元パイロット」が必要か
- 信頼性:地域に根ざした農家や関係者がパイロットになることで、農家側が安心して委託できる点が大きい。
- コスト:遠方からスポットで呼ぶと交通費・宿泊費が作業原価に上乗せされる。地元や近隣にパイロットがいることがコスト低減につながる。
- 現場対応力:かんきつ類は斜面や不整地が多く、自動航行だけでは対応しきれないケースがあるため、現場判断ができる熟練者が重要。
田邉さんは「現状は農業分野のドローンパイロット自体が足りない」と述べ、地域内でパイロットを育て定着させることが普及の前提だと指摘しています。
サービスの要点:研修・機材貸与・遠隔サポート
オプティムの「アグリポン」では、ドローンを所有していない方にもライセンス講習を提供し、受講者に対して委託作業の依頼を行います。実際に作業する際はドローンが貸与され、オプティムのリアルタイム遠隔サポートを受けながら飛行ができる仕組みです。東林さんは「高額なドローンを購入しなくても飛ばせる点」「遠隔サポートにより新人でも安心して任される点」を高く評価していました。
普及の壁:成果(効果検証)と現場の環境整備
田邉さんは普及に向けた課題として、まず「防除の成果」を挙げています。手撒きで濃度を薄く丁寧に散布する従来方法に対し、ドローンは高濃度を前提に降雨や浸透を利用する散布設計となることが多く、「本当に効くのか」という不安が農家に残るためです。効果を数値と事例で示し、説明できる体制づくりが必要です。
もう一つは園地の物理的な環境です。みかん畑にはスプリンクラーや電線、複雑な地形が多く、ドローンの自動航行を妨げます。田邉さんは「自動飛行で安全に散布できる環境を整えるには時間がかかるかもしれない」と述べ、インフラ整備や園地側の配慮が長期的課題であるとしています。
現場で感じるやりがいとビジネスチャンス
現場のリアクションが直接返ってくる点がドローンパイロットの大きなやりがいです。特に斜面や複雑地形で通常の機械では難しい作業をこなした際、農家さんが驚きと喜びを示す瞬間がモチベーションになっています。
また田邉さんは、みかんは散布回数が多いためパイロットの仕事量・収入面でのメリットが大きいと指摘します。若手がパイロットに挑戦することで自身の園地を守りながら地域の農家を支える新たな担い手になれる点も強調されました。
自治体・農機メーカー・営農法人へ:普及に向けた具体的提言
- 実証と情報発信:ドローン散布の効果を示すフィールドデータを整備し、わかりやすく農家に提示する。
- 研修と補助:地元パイロット育成のための講習・ライセンス取得支援、初期の機材貸与や稼働補助を検討する。
- 園地環境整備:電線の整理や共用噴霧スペースの確保など、ドローンが飛ばしやすい環境づくりを進める。
- 共同発注の促進:複数の農家が集まる共同発注スキームを整備し、単価低減と稼働率向上を図る。
- パイロットの業務環境改善:労働時間や宿泊負担を軽減するための地域内配置、拠点化を推進する。
サービス概要と申し込み先
「アグリポン かんきつ類ドローン防除サービス」は現在、有田エリアを中心に和歌山県内および他府県の産地から申し込みを受け付けています。ネット経由だけでなく、現地で農家同士が集まる場や既に参加している農家経由での紙・FAXでの申し込みにも対応している点が特徴です。
主な防除対象:
- 夏場の黒点病、ゴマダラカミキリ、チャノキイロアザミウマ、カメムシ等
- 収穫前(11月〜)の防腐剤(貯蔵病害)
- 春先のかいよう病 ほか
問い合わせ・詳細は以下からご覧ください:
まとめ:パイロットは「操縦者」ではなく地域の「新しい担い手」へ
有田市で始まった取り組みは、かんきつ類のドローン防除が単なる省力化ツールを越え、農家とパイロットの間に「信頼」を構築する新たな関係性を生んでいることを示しています。今後は効果検証の積み上げ、園地の環境整備、そして何より地元パイロットの育成と定着が普及の鍵になります。営農法人や自治体、機械・資材メーカーが協力してこの流れを後押しすれば、かんきつ農業のスマート化は一層進むはずです。ぜひ現場での実証や研修の機会を活用し、地域の担い手づくりを進めていただきたいです。
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
【インタビュー】 かんきつ類のドローン防除普及には“地元パイロット”が不可欠 (ドローンパイロット 田邉理人さん/東林真衣さん) | 農業とITの未来メディア「SMART AGRI(スマートアグリ)」
https://smartagri-jp.com/smartagri/12164
