気候変動に強い農業へ — 最新の実践とテクノロジーで「強靭な現場」をつくる
猛暑や豪雨、長期の干ばつといった気候リスクがますます現実となる中、営農現場では「気候変動に強い農業（気候レジリエント農業）」への転換が急務になっています。土づくりや作付けの工夫に加え、ドローンやセンサー、AIを活用したスマート農業は、変動する天候に適応しつつ生産性と持続可能性を両立する鍵になります。本稿では、現場の判断者・経営者向けに、実践すべき手法と導入のポイントをわかりやすく解説します。
なぜ「気候レジリエント農業」が重要なのか
気温上昇や降雨パターンの変化、極端な気象は収量変動を大きくし、経営リスクを増大させます。特に集落営農や営農法人は、被害が発生した際の復旧コストや出荷の安定性が経営に直結します。気候レジリエント農業は、単なる被害対策ではなく、長期的に収益を守りつつ環境負荷を低減する経営戦略です。
現場で効果の高い実践手法
現場で取り組みやすく、効果が期待できる主要な手法を挙げます。
- 作目の多様化：複数作目を組み合わせることで、一作の不作リスクを分散します。耐乾性の高い雑穀（ミレット、ソルガム等）や輪作体系の導入が有効です。
- 低耕起／不耕起（保全型耕うん）：土壌水分の保持と侵食防止に寄与します。機械選定では無人トラクターや低圧タイヤの活用で土壌被害を抑えられます。
- 覆土作物（カバークロップ）：踏圧や雨による流亡を防ぎ、有機物を供給して土壌の保水性を高めます。
- アグロフォレストリー（樹木と作物の共存）：風害の緩和や日陰供給、炭素隔離による長期的な安定化を図れます。
- 改良された水管理：点滴灌漑（ドリップ）、間歇灌漑、雨水貯留、畦・段切りなどの地形的対策で水利用効率を高めます。
- 土づくりの徹底：堆肥や菜種油粕などの有機物投入、輪作・緑肥、場合によってはバイオチャー（炭）の利用で保水性と養分循環を改善します。
テクノロジーで「変化を予測し、先回りする」
センサー、リモートセンシング、AI、無人機・無人作業機は気候ショックへの対応力を飛躍的に高めます。具体例は次の通りです。
- 気象予測とアラート：高精度の短期気象予報や局所予報により、散布や収穫のタイミングを最適化できます。
- 土壌水分・環境センサー：フィールド単位で水分やEC、温度を測定し、AIが灌漑スケジュールを自動で提案します。
- 衛星・ドローンによる生育モニタリング：NDVIや熱赤外画像で生育ステータスを把握し、病害虫や乾性ストレスを早期発見できます。ドローンは散布や点検の省力化にも有効です。
- 無人トラクター・コンバイン：人手不足時の作業保証と、夜間・好適条件での運用によるタイミング最適化が可能です。自動化によって耕作や播種のばらつきが減り、効率化が進みます。
- AIによる意思決定支援：気象・生育・市場データを統合した意思決定ツールで施肥量や散水の最適化、収穫タイミングの判断を支援します。
経営者・現場管理者のための導入チェックリスト
導入時に優先順位を付けて進めるための実務チェックリストを提示します。
- 気候リスクの現場診断（洪水リスク、乾燥の傾向、風害など）を行う。
- 目標を設定する（例：水使用量を10%削減、土壌有機物を3年で1%向上など）。
- パイロット圃場を決めて、1〜2シーズンで効果を検証する。
- 導入機器はまずサービス利用（ドローン散布の外注、共有無人トラクター）で試す。
- データ管理体制を整備する（データ共有ルール、バックアップ、プラットフォーム選定）。
- 職員・組合員向けの研修計画を作る（操作、解析、メンテナンス）。
- 費用対効果（CAPEX/OPEX）と資金調達手段を明確化する。
資金・制度面の支援と地域連携
導入を加速するためには外部資金と制度支援、地域での協働が重要です。
- 自治体や国の補助金・交付金を活用する（スマート農業関連補助、灌漑改善の補助など）。
- 保険（気象連動保険など）でリスク管理を行う。
- 共同利用（機械センター、ドローンサービス事業者）で初期投資を抑える。
- カーボンクレジットや環境価値を収益化する取り組みを検討する。
導入でよくある課題と現実的な解決策
現場で直面しやすい課題と、その対策を整理します。
- 初期投資が高い：段階的導入と共有サービス、リースやファイナンス、補助金の活用で負担を軽減します。
- 人材・技術の不足：外部ベンダーによる運用委託、オンライン研修やハンズオンで技能移転を進めます。
- データの断片化：標準フォーマットの採用とクラウドベースのプラットフォームでデータ統合を行います。
- インフラ不足（通信など）：オフラインで動作するエッジデバイスやメッシュネットワークを導入する選択肢があります。
現場事例（イメージ）
ある営農法人では、土壌水分センサーとドリップ灌漑を組み合わせ、AIで自動灌漑を制御した結果、灌漑水量を数十％削減しつつ収量を維持しています。また、地域の機械共有センターが無人トラクターを導入し、コストを抑えながら播種のタイミングを最適化して作柄安定化に成功しています。こうした取り組みは小規模の集落でもモデル化可能です。
導入後に見るべき指標（KPI）
- 土壌有機物含量（SOM）の推移
- 水使用効率（収量／灌漑水量）
- 収量の年次変動幅（標準偏差）
- NDVI等の生育指標の均一性
- 労働時間・機械稼働時間の削減量
まとめ — 今、経営判断として何をすべきか
気候変動は待ってくれません。まずはリスク診断と小さな実証から始め、効果が見えた技術を段階的に広げることが現実的です。ドローンやセンサー、無人機といったアグリテックは、リスクの早期発見と迅速な対応を可能にし、長期的な経営安定につながります。自治体や共同体、補助制度を上手に活用しつつ、土づくりと水管理をベースにした農場づくりを進めてください。
アグニューは、現場の技術導入事例や補助金情報、機器選定のポイントなど、実務に直結する情報を継続してお届けします。まずは現場診断を行い、次のシーズンに向けた具体的な一手を検討してみてください。
