デンソーとディーピーティーが共同検証開始:土壌「水ポテンシャル」センサーでハウス灌水を高度化
ディーピーティー株式会社(DPT)が、株式会社デンソーと共同でスマート農業分野における灌水制御技術の検証を開始します。岐阜県可児市の研究用ビニールハウスにデンソーの水ポテンシャル(pF)測定可能な土壌センサーを導入し、DPTの環境制御システム「e-minori plus」と連携して、従来の「日射比例灌水制御」との比較検証を行います。実施期間は2025年10月中旬から翌年5月頃までの予定です。
今回の検証で行うこと(概要)
- デンソー製の土壌センサーで地温・含水率・EC・水ポテンシャルの4項目を計測しデータ収集
- 収集データをDPTの「e-minori plus」と連携してハウス内状態をリアルタイム可視化
- 既存の日射比例灌水制御と水ポテンシャル制御を比較し、収量・品質・灌水最適化の効果を検証
技術的ポイント:水ポテンシャル(pF)とは何か、なぜ重要か
土壌の「含水率」は土中に含まれる水の割合を示す数値ですが、含水率だけでは「作物がその水を吸えるか」を直接示せません。水ポテンシャル(pF)は、作物の根が土壌から水を吸い上げる際の“水を吸う力の強さ”を表す指標で、数値化することで作物の生理状態に応じた灌水判断が可能になります。
具体的には、水ポテンシャルが低い(より負の値)ほど土中の水は作物にとって取りにくくなり、生育にストレスがかかります。これを定量的に把握できれば、過剰灌水や不足を避け、適切なタイミング・適量の灌水制御が可能になります。
日射比例灌水と水ポテンシャル制御の違いとハイブリッドの可能性
日射比例灌水はハウス内の日射量に応じて灌水量を変えるもので、短期的な蒸散量増加に素早く対応できます。一方、水ポテンシャル制御は土壌と作物の実際の水状態をベースに灌水判断するため、作物が必要とする“本当に必要な水量”に合わせやすいのが特徴です。
両者はそれぞれ長所があり、今回の検証では収量や品質に対する影響を比較すると同時に、両者の長所を組み合わせたハイブリッド制御の有効性も検討される可能性があります。例えば、日射量で即応しつつ、土壌水位(pF)で微調整する運用は、効率と安全性の両面で有望です。
現場で期待できる効果
- 節水効果:作物の実際の水需要に合わせることで無駄な灌水を削減できます。
- 品質・収量の安定化:乾湿ストレスを低減することで果実の肥大や糖度等の品質管理が向上する可能性があります。
- 省力化・意思決定の高度化:データ可視化と連携制御により、現場担当者の経験頼みの運用から脱却できます。
- 早期病害虫対策の支援:土壌や環境の変化を早期に検知し、病害の発生リスク低減に繋げられます。
現場での注意点(導入前に確認すべきポイント)
- センサーの設置密度と配置:土壌の不均一性によりポイント計測では代表性が低くなることがあるため、作物・土壌条件に応じた配置計画が必要です。
- キャリブレーションとメンテナンス:土壌タイプやECが高い場合、センサー校正や定期点検が重要です。
- 通信・電源の確保:ハウス内での安定したデータ通信と電源対策を確認してください。
- 既存灌水設備との連携:バルブやポンプ制御との互換性、制御インターフェースの調整が必要です。
- 判断基準とKPI設定:導入目的(節水、品質向上、労働削減など)に応じた評価指標を事前に決めておくと検証が効果的です。
導入を検討する現場への実務的アドバイス
導入を検討される際は、以下を目安にベンダーと協議すると現場導入がスムーズになります。
- 試験区の設定:ハウス内で比較試験区(従来制御 vs 水ポテンシャル制御)を設け、明確な評価期間とKPI(収量、品質、灌水量、労働時間)を定める
- センサーログの取得頻度・保存期間:解析に十分な高頻度データを確保し、長期比較ができるようにする
- 運用マニュアルの整備:異常時のアラート設定、手動介入ルール、メンテ周期を明文化する
- スタッフ教育:現場担当者にセンサーの基礎やデータの読み方を研修しておく
- 費用対効果の試算:初期投資と運用コスト、期待される節水・収量増効果を比較する
今後の展望
本検証で得られる知見は、デンソーの土壌センサー側の技術改善と、DPTの「e-minori plus」における制御ロジックの高度化に活かされます。最終的には、作物の生育状態を踏まえた精密な灌水管理を実現し、現場ごとのニーズや栽培環境に応じた柔軟な提案が可能になることが期待されます。
また、収集したデータをAIで解析して灌水最適化アルゴリズムを構築すれば、気象変動や世代交代する品種にも対応できる汎用的な制御システムへと発展する可能性があります。農機メーカーや自治体の技術担当者にとっても、標準化されたデータフォーマットや通信インフラの整備は注視すべきポイントです。
最後に — 現場へのメッセージ
今回の共同検証は「センサーで測る」から「作物に合わせて制御する」へと灌水運用を進化させる一歩です。特にハウス栽培を行う営農法人や集落営農の現場管理者にとっては、実証結果が現場運用の改善や省力化に直結する可能性があります。検証の進捗や得られたデータは、今後の導入判断の重要な参考資料となるため、計画段階から評価軸を明確にしておくことをおすすめします。
(参考)ディーピーティー株式会社:https://www.dpt-inc.co.jp/
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
スマート農業分野の灌水制御技術をデンソーと共同で検証開始 | ディーピーティー株式会社
https://www.atpress.ne.jp/news/555092
