スマート農業は一過性のブームか?2025年の市場規模は
スマート農業の市場規模は急速に拡大しており、「一過性のブーム」では終わらないことを示す予測が出ています。NAPA(日本のアグリテック関連の調査を行う組織)がまとめた『2030年のフード&アグリテック』の推計を基にすると、国内のスマート農業市場は2019年の725億円から2021年には1,944億円、そして2025年には3,885億円に達するとの見通しです。本稿では、分野別の動向、成長を支える要因、普及に向けた課題と解決の方向性をわかりやすく解説します。
分野別の市場動向(NAPA推計)
ここではNAPAの区分を用いて、主要分野ごとの2019年〜2025年の推移を整理します。NAPAは「次世代ファーム(生産プラットフォーム等)」「農業ロボット(ドローン、収穫ロボット、ロボットトラクタ等)」などを対象に算出しており、流通プラットフォームはスマート農業の範疇に含めていません。
- ドローン:2019年の市場規模は約310億円、2020年に約583億円、2025年には約1,073億円と予測されています。メーカーの出荷高に加え、農作業代行や空撮・生育診断等のサービス収入を合算しています。
- 農業ロボット(トラクタ、田植機、コンバイン等):2019年は約70億円、2020年に約144億円、2025年には約665億円と予測されます。トラクタやコンバインは既に稲作現場に深く定着している機器群があり、ここに自動化・自律化技術が浸透していきます。
- 収穫ロボット:上市が進んだのは最近のことで、2019年約3億円、2020年約11億円。以降急伸して2025年には約200億円規模になると見られます。
- 植物工場・スマート温室等:2019年は約152億円、2020年約238億円、2025年には約541億円と予測されています。閉鎖型生産による高付加価値野菜や供給安定化が市場拡大を牽引します。
- 生産プラットフォーム(生産プラットフォーム=クラウド+センサー+AI等):2019年約190億円、2020年約297億円、2025年には約994億円と、特に大きな成長が見込まれる分野です。
なぜ生産プラットフォームに注目すべきか
生産プラットフォームは、センサーやIoT、クラウド、AI、ビッグデータを活用して生産プロセス全体を最適化するオンライン基盤です。作付け計画、資材調達、生育管理、収穫・保管までの工程を横断するため、個別機器の導入よりも波及効果が大きく、関連機器(モニタリングドローン、水管理システム、各種センサー)や専門家による解析・コンサルティングサービスとも強く連動します。
このためNAPAは、生産プラットフォーム単体で2019年190億円→2025年994億円という大幅拡大を見込んでいます。つまり、ハードウェアの普及だけでなく、データとサービスを結びつけるプラットフォームビジネスが今後の成長の軸となることが示唆されています。
成長を後押しする要因
- センサーや通信コストの低下、AI解析技術の進展により、データ駆動の営農が現実的になっていること。
- 人手不足や高齢化の進行に伴い、省力化・自動化ニーズが高まっていること。
- 高付加価値作物や安定供給を求める市場側の需要増加(植物工場など)。
- サービス化(SaaS、ロボットのサービス提供)による導入障壁の低下。
普及に向けた課題と解決の方向性
市場の急拡大が見込まれる一方で、普及にはいくつかの課題があります。特に重要なのはユーザー(生産者)側の採用を促す仕組みです。
- 高額な初期投資:ロボットトラクタや大型機械は高価で、個々の農家が所有するのは負担が大きいです。NAPAの佐藤さんは「ハードを無償で提供してサービスを有償提供するビジネス化、シェアリングやレンタルが普及のカギ」と指摘しています。
- 地域・作物特性への適合性:汎用システムより地域や作物に特化したソリューションが求められます。ここでJAや自治体の知見が重要になります。
- 使いやすさと価格競争力:ユーザーが利用し続けられるUI/UX、メンテナンス体制、リーズナブルな価格設定が必須です。
- 人材と支援体制:導入後の運用支援やデータ活用のための人材育成が不可欠です。
具体的な解決策の方向性
- ハードウェアの所有からサービス提供へ転換(レンタル、サブスクリプション、作業委託サービス)。
- 地域ごとのニーズを踏まえた共同購入やシェアリング、JA・自治体による貸し出しモデルの推進。
- メーカーや代理店による導入支援・保守サービスの強化。
- 生産プラットフォームと機器・サービスを組み合わせたエコシステム構築。
自治体・JAに期待される役割
地域特性や営農の実績データを多く保有するJAや自治体は、スマート農業導入の窓口かつ共創パートナーとして重要な役割を果たせます。NAPAの佐藤さんは、地域に根差したデータ(気象、ほ場状態、過去の営農実績)を活用して、地域特化型のシステム開発にJAが携わることを推奨しています。具体的には以下のような取り組みが考えられます。
- 地域に合ったシステム要件の取りまとめとベンダーとの共創。
- 共同購入・シェアリングや自治体による導入補助の促進。
- 導入後の運用支援、教育・研修の実施。
投資・事業機会の観点
投資家や事業者にとっては、プラットフォーム型サービス、データ解析・コンサル、レンタル・シェアリング事業、収穫ロボットや自律ロボットの実装支援などが有望な領域です。特に生産プラットフォームは、複数のサービスや機器を束ねることで高いスケール効果を期待できます。
まとめ:スマート農業は一過性か?
データと現場の自動化を結びつける生産プラットフォームと、サービス化による導入ハードルの低下が進めば、スマート農業市場は一過性の流行で終わらず、持続的に拡大すると考えられます。NAPAの推計が示すように、2025年に向けて市場は急成長の局面にありますが、普及には価格・サービス形態・地域適合性といった課題への戦略的対応が不可欠です。
製造側は「ハード+サービス」の事業モデルを強化し、JAや自治体は地域実情に基づく共同導入・運用支援を進めることが求められます。投資家やベンチャーは、生産プラットフォームやサービスモデル、収穫ロボット等の成長領域に注目すべきでしょう。スマート農業は技術的進化だけでなく、ビジネスモデルと地域連携の両輪で実装が進むことで、本格的な普及フェーズに入ると考えられます。
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
スマート農業は一過性のブームか?2025年の市場規模は
https://agri.mynavi.jp/agriplus/vol_02/chapter01_02/