農家所得向上と地域振興をめざすJA岡山の挑戦 ― 新品種「つやきらり」とAI活用のスマート営農
JA岡山が示した「JA岡山営農振興計画(2025〜27年度)」では、新品種導入とスマート農業の本格展開により、農家所得の向上と地域活性化を図る取り組みが進んでいます。瀬戸内の気候を生かす果樹生産で知られる管内で、水稲の高温対応やAIによる栽培管理を組み合わせる実践が注目されています。本稿では、現場で役立つポイントをわかりやすく解説します。
計画の狙いと重点施策
JA岡山は管内の現状と課題を踏まえ、10年後のあるべき姿を見据えた営農振興計画を策定しました。重点テーマは「提案型営農指導による農家所得の向上」で、具体的には次の3分野に注力しています。
- 農畜産物の生産振興(新品種導入・栽培技術の高度化)
- 販売力の強化と販売体制づくり(品質向上とブランド化)
- 営農指導体制の充実(ICT/AIを活用した支援)
注目の新品種「つやきらり」――高温耐性と多収性で安定生産へ
近年の猛暑は水稲の品質低下と収量減少を招いており、JA岡山は高温耐性を持つ新品種「つやきらり」に着目しています。「つやきらり」は九州沖縄農業研究センターで2018年に登録された中生品種で、特徴は次の通りです。
- 高温耐性:猛暑下でも品質低下が抑えられる傾向がある
- 多収性:収量増が期待できる性質を有する
- 害虫耐性:特定の害虫被害に強い特性がある
- 食味・品質:実証圃場で良好な評価を獲得
JA岡山は2023〜24年度にかけて管内9カ所・5.4haで実証試験を実施し、24年産では1等比率が100%という高い結果を報告しています。これを受け、南部地域を中心に品種転換を促進すると同時に、乾田直播栽培や多肥栽培を組み合わせて多収性の実証を進め、安定生産と品質向上をめざしています。
栽培法のポイント:乾田直播と多肥栽培
「つやきらり」の普及と合わせて検証している栽培手法として、乾田直播(ちくは)と多肥栽培があります。
- 乾田直播:育苗・移植の手間を省き、作業工程の省力化とコスト削減を図る方式。ただし雑草対策や初期成育管理が重要です。
- 多肥栽培:窒素肥料を適切に増やすことで多収性を引き出す手法。過度な施肥は品質低下や環境負荷につながるため、土壌診断と生育段階に応じた施肥設計が必要です。
導入にあたっては圃場条件や水管理体制を確認し、パイロット導入で現地適応性を評価することが重要です。
AI×衛星画像で営農指導を高度化 ― ザルビオフィールドマネージャーの活用
JA岡山はザルビオフィールドマネージャー(栽培管理支援システム)を導入し、人工衛星画像やその他データをAIで解析する画像診断データを営農指導に活用しています。システムの主な機能と現場での利点は次の通りです。
- 生育ステージや病害発生の予測:圃場ごとに生育遅延や病害発生のリスクを把握できます。
- 散布・作業タイミングの提案:防除や追肥の最適時期を情報として提示し、無駄な作業を減らします。
- 圃場ごとの診断共有:担い手農家とJAが同じ診断結果を参照して指導や対応を行えます。
今後は利用者アカウントの連携や診断結果に基づく情報分析の共有を進め、効率的な運用とスマート農業の普及拡大をめざしています。
現場導入のための実務チェックリスト
営農法人や現場管理者が新品種とAIツールを導入する際の実務的な手順と留意点を整理しました。
- 圃場適性の評価:土壌、排水、過去の病害履歴を確認し、試験区を設定する。
- 小規模試験→拡大:まず1〜2区画で「つやきらり」と栽培法を試験し、収量・品質・作業負担をデータで比較する。
- データ連携の準備:ザルビオ等のアカウント作成、圃場情報と連携できる機器(スマホ、GNSS搭載トラクタ等)を整備する。
- 現場研修の実施:職員と担い手向けにAI診断の読み方や防除・施肥の意思決定プロセスを教育する。
- 経済性評価:導入コスト(種子、機器、研修、システム利用料)と期待収益(収量増、等級向上、省力化)を比較する。
- データ運用ルールの策定:アカウント共有、データの権利・利用範囲、プライバシー対策を明確にする。
期待される効果と地域振興への波及
新品種とAIを組み合わせることで、次のような効果が期待できます。
- 品質の安定化と等級向上による販売力強化(高単価化)
- 収量の向上と収入の底上げ
- 気象リスクへの対応力向上(高温対策など)
- 営農指導の効率化による技術普及スピードの加速
- 自治体や地域企業と連携したブランド化・観光連携による地域振興
これらが実現すれば、農家所得の向上だけでなく雇用や二次産業の活性化を通じた地域経済の好循環が期待できます。
導入にあたっての課題と対応策
一方で現場導入には課題もあります。主なものとその対応策を挙げます。
- 種子・苗の入手体制:需要急増に備え、JAや種苗会社と供給計画を協議する。
- 技術継承と人材育成:若手技術者の育成や外部専門家を活用した研修を継続する。
- データの利活用とプライバシー:利用規約と管理体制を整備し、信頼できるベンダーと契約する。
- 初期投資負担:補助金や設備リース、共同投資モデルを検討し、営農法人単位での分担を工夫する。
自治体・メーカー・JAに期待される役割
成功には地域全体の協力が不可欠です。各主体への期待は次の通りです。
- 自治体:導入支援の補助金・研修プログラムの整備、試験圃場の提供
- 農機メーカー:乾田直播機器や施肥制御システムの現場適合性向上と連携機能の提供
- JA:品種供給、技術指導、データ共有のハブとしての調整・教育機能の強化
JA岡山の現状データ(参考)
(2025年3月31日現在)
- 正組合員数:23,981人
- 准組合員数:28,930人
- 職員数:939人
- 販売品取扱高:約1兆70億円
- 購買品取扱高:約38.5億円
- 貯金残高:約5,591億円
- 主な作物:米・麦、桃、ブドウ、花き
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
農家所得向上、地域振興へ 新品種やスマート農業導入|JA全農ウィークリー
https://www.zennoh-weekly.jp/wp/articles/23570
