スマート農業タッチ&トライ2025 レポート:電動化・自動化機が現場に提示した「実用」の姿
スマート農業イノベーション推進会議(IPCSA)は、10月3日まで幕張メッセで開催中の「第15回農業WEEK」と連携し、近隣の豊砂公園で「スマート農業タッチ&トライ2025」を実施しました。16社・団体が実機や試作機のデモを行い、農業現場での省力化・効率化と電動化によるCO2削減の両面で、実用に近い技術が紹介されました。本稿では展示の注目点と、営農現場での導入検討に向けたポイントを整理します。
会場で目立った機体・技術(概要と現場への適用性)
クローラ型汎用運搬ロボット「メカロン」
農研機構の農業機械研究部門とDoogが共同開発した追従型のクローラ運搬ロボットです。スイッチ一つで作業者に追従する自動走行機能に加え、農地で安定した走行を実現するメモリトレース機能を備え、果樹園などでの実証を重ねています。現行の販売価格はおよそ250万円~と報告されており、量産化が進めばコストが下がり共同導入にも適した機体です。
電動モビリティ「サウザークロス」(Doog×スズキ)
悪路対応の協働運搬ロボットで、無人搬送車(AGV・AMR)カテゴリに登録されるマーケティング試作機です。小型でカスタマイズ性が高く、収穫物の搬送などに向く設計のため、ハウス・果樹園の狭い通路や段差の多い現場での活用が期待されます。中小企業省力化投資補助金などの対象にもなりやすい点が導入を後押しします。
2人乗り電動モビリティ「DIAPASON(ディアパソン)C580」(ヤマハ発動機)
ヤマハの電動モーターと本田技研工業の携行型バッテリーを搭載した2人乗り車両で、重量は約350kg、最高速度は時速15kmに制限されています。小型特殊免許で運転可能なため、免許返納後の高齢者の移動手段や果樹園内での移動用車両として有望です。小型トラックでの運搬や牽引も可能で、導入のハードルが比較的低い点が利点です。
ラジコン式電動草刈り機「ユニモワーズ モデルS」(ユニック)
カメラ映像を見ながら遠隔操作するクローラタイプの電動草刈り機で、最大45度の急斜面でも作業可能です。労働安全衛生規則の改正(熱中症対策・安全対策の強化)や高齢化に伴い、こうした遠隔・自動除草機への需要が拡大しています。同機は国土交通省のNETISにラジコン式電動草刈機として初めて登録された点も注目材料です。
陸上リモコン散布機「ZEUS(ゼウス)」シリーズ(東京ドローンプラス)
ハウスや果樹栽培など空中散布が難しい環境向けのリモコン式散布機で、実演は50Lの「ゼウスR50」。120Lの「ゼウスR120」など大容量モデルもあり、ドローン(ヘリオスアグリ等)と組み合わせた陸空ハイブリッドの散布体系が提案されていました。散布作業の省力化と農薬の適正散布の両立が期待できます。
有人監視型ロボット田植え機「さなえPRJ8」(井関農機)
8条植えの有人監視型ロボット田植え機で、初心者でもリモコンで扱いやすく、ほ場周囲の形状を取得すれば自動で経路を作成します。メーカーは「空走りなしに作業できる」ことを特徴に挙げており、効率化と精度向上の両面で実用性が高まっています。
示された共通テーマ:電動化、無人化、安全・規制対応
- 電動化:エンジンから電動へ移行する機器が増え、CO2排出削減だけでなく現場の振動・騒音低減やメンテナンス性向上も訴求点です。
- 無人・遠隔化:追従式ロボットや遠隔操作草刈機、リモコン散布機など、人手不足と高齢化への現実的な対応策が紹介されました。
- 安全・規制:労働安全衛生規則の改正やNETIS登録など、導入にあたっての制度的な追い風が出始めています。また補助金カテゴリ(無人搬送車など)への登録が普及を後押しします。
営農現場が導入検討する際の実務的ポイント
営農法人や集落営農の経営者・現場管理者が導入を検討する際は、以下の点を順に確認すると導入の成功確率が上がります。
- 作業の選別と優先順位付け:収穫搬送、除草、散布、移動などどの工程で省力化効果が高いかを数値で評価します(時間、コスト、安全性)。
- 現場適合性の確認:斜面、通路幅、土壌条件、天候条件での走行性や散布の精度を試験します。クローラや低重心設計が向く現場かを見極めます。
- 電源・バッテリー運用計画:充電インフラや予備バッテリー、バッテリー交換体制を整え、1日あたりの稼働想定を立てます。
- 維持管理・保守体制:遠隔機器はソフトウェア更新、センサー校正、消耗部品の交換計画が必要です。メーカーサポートや協業業者との契約を検討します。
- 共同導入・レンタルの検討:価格が高い機体は営農組織や集落単位で共同購入、もしくはレンタルやリースを活用すると負担が軽減されます。
- 補助金・制度の活用:中小企業省力化投資補助金や自治体の支援制度、NETIS登録機器を対象とした調達支援など、利用可能な公的支援を調べます。
- 教育・人材育成:遠隔操作や自動運転機の監視・保守を担える人材の育成が不可欠です。実演会やメーカーのトレーニングを積極的に活用します。
導入のメリットと留意点
メリットとしては、作業時間の短縮、労働負荷の軽減、熱中症・作業事故リスクの低下、燃料費やCO2削減が挙げられます。一方で初期投資、バッテリー寿命や交換コスト、機器の耐候性、データ管理(位置情報や作業ログ)のセキュリティといった点は事前に評価が必要です。
まとめ:実用化が進む今、現場側の「目利き」が重要に
今回のタッチ&トライでは、ロボット搬送、電動モビリティ、遠隔草刈り、散布の陸空連携、そしてロボット田植え機と、農作業の現場に即した機器群が揃いました。いずれも「現場で使える」ことを意識した設計が進んでおり、補助金や制度による支援も整いつつあります。
導入を成功させるには、単に機器を買うのではなく、現場の作業プロセスを見直して最も効果的な工程に優先投資すること、共同購入やレンタルを活用して導入コストを下げること、そして導入後の保守・教育体制を整えることが重要です。実機に触れられるこうした展示会は、現場に合った「目利き」を養う絶好の機会ですので、今後も積極的に足を運ぶことをおすすめします。
(取材・文:アグニュー編集部)
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
草刈機や多用途の電動機などを実演 「農業WEEK」との連携でイベント開催 スマート農業イノベーション推進会議|JAcom 農業協同組合新聞
https://www.jacom.or.jp/shizai/news/2025/10/251003-84863.php
