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欧州、中国で進む農業機械の電動化…急拡大のスマート農業市場で日本メーカーが存在感を発揮するには? | Japan Innovation Review powered by JBpress

欧州・中国で加速する農業機械の電動化──日本メーカーが存在感を示すために今、何をすべきか

世界初の量産型電気自動車「i‑MiEV」開発責任者の和田憲一郎氏が示す視点をもとに、欧州や中国で進む農業機械の電動化の現状と課題、そして日本の農機メーカーや農業現場が取るべき具体的な戦略を解説します。

目次

まずは現状整理:欧州・中国と日本の差異

欧州や中国では、乗用車の電動化に続き、トラクターや草刈機、収穫機などの“非自動車モビリティ”の電動化が急速に進んでいます。環境規制の強化、自治体の低排出ゾーン(LEZ)拡大、作業者の労働環境改善といった社会的ニーズが背景にあります。特に欧州では地方自治体や公共事業での導入が進み、実証〜商用展開が加速しています。

一方、日本は電気自動車(BEV)普及が先行し、リチウムイオン電池技術の成熟を通じて農機の電動化も着実に動き出しています。クボタやヤンマーといった国内メーカーが電動トラクターや電動草刈機の開発を進め、クボタは2023年にコンパクト電動トラクター「LXe‑261」を欧州向けにレンタル方式で提供すると発表しました。これは国内メーカーとして本格的な市場投入の第一歩と位置づけられます。

歴史的背景:電動農機は新しい話ではないが、技術が違う

興味深いことに、農業機械の電動化自体は新発想ではありません。1894年にドイツで登場した自走式プラウは地上設備からケーブルで電力を供給する方式で、当時のバッテリー技術が未熟なためケーブル式が選ばれていました。現在の潮流はバッテリー(BEV)と電力電子制御の進化に支えられており、持ち運べる高密度バッテリー、効率的なモーター、スマート制御の三点が実用化を後押ししています。

欧州・中国の進展と共通課題

  • 導入モデルの多様化:購入に加え、レンタルやサブスク型の普及が進んでいます。自治体や営農組織が試しやすい仕組みが普及を促進しています。
  • 充電・電力インフラ:農地の分散性に起因する充電インフラ不足がボトルネックです。現地ではモバイル充電やV2G(車両からグリッドへ)などの実証が進みます。
  • 稼働時間と出力のバランス:大型作業に必要な連続稼働時間をどう確保するかが課題です。交換式バッテリーやハイブリッド化が検討されています。
  • 標準化と安全規制:充電規格、電気安全、EMC(電磁両立性)などの規格対応が求められます。

日本メーカーの強みと弱み

強み:

  • 農機の高い現場適応力と堅牢性のノウハウ
  • 精密農業や自動化(自動操舵、遠隔監視)と組み合わせたソリューション提供力
  • 国内外の販売・サービスネットワーク(特に既存顧客基盤)

弱み・注意点:

  • バッテリーや電力系のコア技術の内製比率が低い企業もあり、部品供給やコスト競争で海外勢に差を付けられるリスクがあること
  • 充電インフラやサービスを含めたエコシステム構築で遅れをとると、単体製品の競争力が限定的になること

実践的な提言:日本メーカーが取るべき5つの戦略

  1. モジュール化・バッテリー共通化を進める

    交換式バッテリーパックやモジュール設計により、稼働の柔軟性を高めつつ、サプライチェーンを効率化します。農地での素早いバッテリー交換は現場の死活問題を解決します。

  2. レンタル/サブスクモデルを拡充する

    導入ハードルを下げるため、自治体や営農法人向けのレンタルやサブスク提供を強化します。クボタの欧州レンタル展開のような実績づくりは重要です。

  3. デジタルサービスと連携した付加価値化

    稼働予測、遠隔診断、ソフトウェア更新、作業データの可視化をセットにして「機械+データ」のサービスを提供します。精密農業プラットフォームとの統合が差別化につながります。

  4. 海外の規格・市場に早期適応する

    欧州の安全規格や中国市場のローカル仕様に対応するため、現地パートナーとの協働や現地R&Dの強化が必要です。規格適合は市場参入のスピードを左右します。

  5. 充電インフラとサービスネットワークを構築する

    農地密度の低さを補う移動充電車、交換ステーション、地域の再エネと組み合わせたマイクログリッドの構築など、機械単体だけでなく“運用環境”を提供する姿勢が求められます。

営農法人・個別農家へのアドバイス

  • まずは小型機や用途が明確な機械から電動化を試すことをおすすめします。草刈りや園芸作業など連続出力の要求が比較的小さい分野は導入効果が見えやすいです。
  • レンタルや共同所有の仕組みを活用し、初期投資リスクを低減するとともに運用ノウハウを蓄積してください。
  • 機械の稼働データを集める体制(通信環境、データ管理)を早期に整備すると、次世代の運用最適化や補助金活用に有利になります。

自治体・政策担当者への提言

導入補助だけでなく、充電インフラ整備や試験圃場の提供、地域の農業法人とメーカーをつなぐ実証支援が重要です。公共調達で電動機械を優先すると市場形成が加速します。

結び:電動化は単なる「モーターの置き換え」ではない

電動農機の本質は、排ガス削減だけでなく、運用コスト構造の変化、メンテナンス体系の刷新、データ駆動型の農業オペレーションへの移行を促す点にあります。和田氏が示すように、自動車産業で得られた電動化や電池運用の知見は活かせますが、農業固有の現場条件(広域分散、長時間稼働、塩害や粉塵など)に合わせたソリューション設計が不可欠です。

クボタのLXe‑261のような先行事例は、日本メーカーがグローバル市場で存在感を示すための重要な足がかりです。今後は機械本体だけでなく、電力インフラ、サービスモデル、データプラットフォームを含めた総合力が勝敗を分けます。営農法人・現場管理者の皆様は、試験導入を通じて早期に実運用の課題を明確化し、メーカーや自治体と連携してソリューションを育てていく姿勢が求められます。

(取材・執筆:アグニュー編集部)

詳しい記事の内容はこちらから(引用元)

欧州、中国で進む農業機械の電動化…急拡大のスマート農業市場で日本メーカーが存在感を発揮するには? | Japan Innovation Review powered by JBpress
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/90794

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