AIとレーザーで除草を自動化──中国スタートアップが「5分の1」コストを掲げ市場投入へ
中国の農業ロボットスタートアップ「蔚藍引擎(上海)科技」が、衛星ナビ大手の司南導航(ComNav Technology)からエンジェルラウンドで資金調達を行い、レーザー除草ロボットの量産・市場投入を加速させることが明らかになりました。レーザー+画像認識AIを組み合わせた同社の除草ソリューションは、従来の手作業や化学除草剤に依存する除草コストを最大で5分の1に引き下げるとされ、2025年11月に大型・小型の2機種を市場投入する計画です。
技術のポイント──レーザーで「成長点」を狙う非接触除草
蔚藍引擎は2022年設立の企業で、レーザー除草に特化した中国初の企業の一つとされています。基本的な仕組みは以下の通りです。
- 高精度の画像認識AIが作物と雑草を数ミリ秒で識別。
- 雑草の種類や大きさに応じてレーザー出力を細かく制御。
- レーザー熱で雑草の生長点をピンポイントに破壊し、細胞内の水分を瞬時に沸騰させて枯死させる。
- 土壌に接触しないため、苗や土壌への物理的ダメージが少ない。
- 昼夜問わず稼働可能で、1基の照射器で1時間に12万株以上を処理可能とされる高いスループット。
こうした特徴により、漢方薬材や有機野菜、輸出向け高品質野菜、牧草など、こまめな除草が求められる作物でも運用が想定されています。
市場・コスト面のインパクト
報道によれば、中国の除草ロボット需要は約29万9,000台、関連市場規模は8,959億元(約1兆8,800億円、1元=約21円換算)に達しています。蔚藍引擎は商用レベルのコア技術と特許を保持しており、今後の量産・市場拡大で存在感を高める見通しです。
コスト試算も注目点です。従来の手作業による除草は1ムー(約667平方メートル)当たり約200〜300元(約4,200〜6,300円)かかるのに対し、レーザー除草ロボットの普及により同コストを約40〜60元(約840〜1,300円)まで下げられるとされています。人件費の高騰や労働力不足が続く地域では、除草の自動化がコスト競争力に直結します。
出資の意味と実用化のロードマップ
今回の出資元である司南導航は衛星測位(GNSS)や測位関連技術に強みを持つ企業で、両社は既にスマート農業分野での協業関係にあります。司南導航の出資により、農機の自動走行・無人農場運用・高精度測位との連携が一層進むことが期待されます。
蔚藍引擎は2025年11月に大型(大規模農場向け)と小型(ビニールハウス・小規模農場向け)の2機種を市場投入予定で、2026年に売上高2,000万元(約4億2,000万円)を目標に掲げています。調達資金は研究開発、量産化、工場整備、市場開拓に用いられます。
日本の営農現場が検討すべきポイント(実務的視点)
この技術が日本の営農現場にとっても示唆する点は多く、導入を検討する際に意識したい実務的なチェックポイントを整理します。
- 安全規制とレーザー管理:高出力レーザーは目や皮膚への危険があるため、日本の労働安全基準や電波・光学関連の規制適合が前提になります。導入前に安全インターロックやフェンス、運用ルールの確認が必要です。
- 測位・自律走行との連携:GNSS/RTKや地上局との組み合わせで高精度位置決めが可能か、既存の自動操舵・管理システムとの接続性を確認します。
- 電力・稼働インフラ:昼夜稼働のための電源、充電インフラ、予備バッテリー運用の計画が必要です。温室内や密植地での熱影響も評価すべきです。
- 作物別の適合性:苗への影響、行間・株間の寸法、作付け密度など作物ごとの運用適合性を現地で検証する必要があります。
- メンテナンスとオペレーション:レーザーや光学センサーの保守、AIモデルの再学習・更新、現場オペレータの教育体制を確立する必要があります。
- ROIとコスト試算:導入コスト、維持費、人件費削減効果、稼働率を踏まえて投資回収を試算します。中国の試算は現地条件に依存するため、日本の人件費・電気代等で再評価が必要です。
現場への落とし込み案(短・中期)
- 短期(試験導入): まずは試験区画での実運用テストを行い、識別精度・レーザー出力の最適化、苗や設備への影響を確認します。
- 中期(スケールアップ): 温室やハウスの小面積区画で運用管理フローを固め、保守体制や安全プロトコルを整備した上で圃場単位に拡大します。
- 長期(統合運用): 自動運転トラクタやドローン、農業管理プラットフォームと連携させ、データ駆動の農場管理へと統合します。
まとめ:省力化と環境配慮の両立に向けた選択肢
蔚藍引擎のレーザー除草ロボットは、除草の省力化と農薬削減という二つの課題に対して有望な選択肢を示しています。中国市場での大規模な投資・市場拡大は、技術成熟とコスト低減を進める追い風となります。日本の営農法人や農機メーカーにとっては、レーザー除草が現場運用の選択肢に入るかどうかを見極める重要な段階に差し掛かっていると言えます。
今後は安全基準や農地特性に合わせたローカライズ、測位・自動走行システムとの統合、そして実地検証による運用ノウハウの蓄積が導入成功の鍵になります。興味がある現場は、まずはメーカーとの協業や試験導入の相談から始めることをおすすめします。
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
AI×レーザーで大規模除草を効率化 中国発農業ロボット、コスト5分の1に | 36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア
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