伊藤園、AI画像解析で「摘採期見極め」をDX化 高額分析機の代替と海外展開を視野に
伊藤園がスマホアプリを活用したAI画像解析により、お茶の最適な一番茶の摘採期を見極めるシステムを磨き上げています。熟練技術や高額な成分分析機に依存しない方法で生産現場の負担を軽減し、GAP取得や有機栽培の強化、碾茶(てんちゃ)生産の拡大などを通じて、国内外での持続的生産と輸出拡大を目指しています。
ニュースの要点
5月15日の視察取材で、伊藤園の佐藤貴志製品開発部副部長(前:農業技術部)は、一番茶の需要減や後継者不足などで崩れかけた生産基盤を守るため、農業DXと現場支援を強化すると説明しました。具体的には次の取り組みが紹介されています。
- スマホ/タブレットのアプリで撮影した新芽画像をAIで解析し、芽の堅さや繊維量、アミノ酸量の推定値を算出。摘採に適した時期の判断材料を提供する。
- 高額な専用分析器(相場は1台700〜800万円、毎年の校正費用約20万円)に代わる低コスト手段として導入を目指す。
- 農業支援クラウド「アグリノート」との将来的な連携、衛星画像やトレーサビリティ強化による海外向け生産性向上。
- GAP認証100%取得や減農薬・有機栽培の推進、温度調節した蒸気で害虫を防除する機械開発、耐病性品種の育成支援。
- 抹茶需要を背景に碾茶栽培の増強、バイオ炭の畝間散布によるGHG削減と土壌改良の試験など環境配慮施策。
AI画像解析の仕組みと現場上の意義
現在、一番茶の摘採期の判断は熟練者の「手触り」や、持ち帰って乾燥・粉砕し専用分析器で繊維量とアミノ酸量を測る方法が主流です。専用分析器は高額で使用頻度も限定されるため、中小規模の生産者にとって大きな負担となっています。
伊藤園のアプリは、撮影画像から芽の形状や色、テクスチャーを解析し、芽の堅さ(伸び具合)や旨味に関連する指標(推定の繊維量・アミノ酸量)を算出します。これにより、現場で即時に「摘採に適しているか」を判断でき、以下のような利点があります。
- 高額機器を購入・維持するコストを回避できる。
- 熟練者に頼らず生産判断を標準化・担保できるため、後継者不足の影響を緩和できる。
- データ蓄積により解析精度が向上し、地域や品種に応じた調整が可能になる。
課題と技術的留意点
一方でAI導入には解決すべき点もあります。伊藤園の農業技術部の大関菖平さんは、次のような課題を挙げています。
- 品種ごとの形状・色の違いにより学習データの多様化が必要であること。
- スマホ機種や撮影環境(光量、角度)による映り方のばらつきへの対応が必要であること。
- 現場での信頼性確保のために、一定のグラウンドトゥルース(実測データ)での検証が不可欠であること。
こうした課題はデータの量と質を高めることで解消される見込みですが、当面は「補助的判断ツール」として運用し、必要に応じて実測検査で裏取りする運用が現実的です。
業界への波及効果と関係者への示唆
今回の取り組みは、農業経営者、アグリテック開発者、自治体、投資家など多様な関係者にとって示唆に富んでいます。
生産者・現場管理者向け
- 導入初期はデモ運用や共同での精度検証を行い、現場ごとの閾値(収益性や品質基準)を明確にしてください。
- アグリノート等の栽培管理システムとの連携で、採取時期データを圃場単位で蓄積し、長期的な品質管理に活用できます。
- 機器コスト削減分を教育・人材育成や有機化対応設備へ回すことで生産基盤強化につなげられます。
アグリテック開発者・機器メーカー向け
- スマホカメラ特性を吸収する前処理アルゴリズム、ライトボックスや簡易撮影ツールの提供が商機になります。
- AI推定の精度向上には現場データの共有とラベリング整備が必要で、産学官連携のデータ基盤構築に参画する価値があります。
- 温度調節蒸気による害虫防除機や被覆資材、碾茶向けの収穫/加工機械などハード面の需要も高まります。
自治体・政策担当者向け
- GAP取得支援やデジタル化補助金、データ共有のためのプラットフォーム整備など、導入促進策が効果的です。
- 輸出促進のためのトレーサビリティ基準整備や検査体制の国際標準化支援が投資対効果を高めます。
海外展開と環境配慮
伊藤園は、GAP認証100%取得を目標に減農薬・有機栽培を強化し、海外市場での信頼獲得を狙っています。碾茶の増産においては、被覆栽培が既に行われている産地(鹿児島など)での切り替えが比較的容易である点を挙げ、抹茶需要の高まりに応じた供給体制の整備を進めています。
環境面では、畝間へのバイオ炭散布試験を実施中で、GHG排出削減と土壌改良による長期的な生産性向上が期待されています。これらはエコ認証やカーボンフットプリント対応を通じて国際市場での競争力向上にもつながります。
現場が取るべき次の一手(チェックリスト)
- まずはデモ版を使って自社圃場での精度を検証する。
- 撮影マニュアル(光の当て方、角度、背景)を整備して現場ばらつきを減らす。
- アグリノートなどの栽培管理ツールと連携し、収穫データを長期的に蓄積する。
- 有機やGAP対応のための設備投資や研修計画を策定する。
- 必要に応じて行政やメーカーと共同で試験導入を行い、補助金や支援を活用する。
詳しい記事の内容はこちらから(引用元)
伊藤園、AIでお茶の摘採期見極めるシステムに磨き 熟練の技や高額な成分分析機の代替として提案 農業DX化推進|ニフティニュース
https://news.nifty.com/article/economy/business/12308-4493949/
