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ロボット導入で、なぜ売り上げや作付け面積が減るのか? スマート農業が抱える意外な落とし穴とは | Japan Innovation Review powered by JBpress





ロボット導入で売上や作付け面積が減る? スマート農業の「意外な落とし穴」と向き合う

ロボット導入で売上や作付け面積が減る? スマート農業の「意外な落とし穴」と向き合う

人手不足と生産性向上の切り札として期待されるスマート農業。無人トラクターや自動水門などのロボット技術は日々進化していますが、最近の研究発表では「ロボットを体系的に導入した大規模稲作経営体で、むしろ最適な作付け面積が減り、売上高が下がる」という予測が示されました。九州大学の南石晃明教授(当時)が示したこの問題は、単に技術を導入すれば良いという短絡的な期待に警鐘を鳴らしています。

目次

何が起きているのか――発表の要点

2021年の「農業情報学会」年次大会で示された内容の要点は次の通りです。

  • 先進的な稲作経営体が農業用ロボットを体系的に導入すると、現段階では収量が上がらないことが多い。
  • 収量や省力化効果が期待ほど出ない場合、最適な作付け面積(経営上合理的な耕作面積)が縮小し、結果的に売上高が減少する可能性がある。
  • 自動化は進んでいるものの、熟練者のもつノウハウや現場判断を完全に代替するには至っていない。

「稲作に関しては、現段階ではロボットを入れても、収量は上がらないんですね。省力化も今日の発表のような状況なので、現実に収量も上がらなくて、省力化の効果も少ないものは当然現場に入らないという…。当たり前と言えば、当たり前なんですが、その結果が今日、極めてクリアーに出てきたのかなと」——南石晃明(九州大学農学研究院、当時)

なぜ導入でマイナスになるのか――考えられるメカニズム

なぜロボット導入が逆効果になり得るのか。現場と経営の両面から、主に以下の要因が考えられます。

  • 熟練者の暗黙知の欠落:稲作では気候や生育状況を見て判断する細やかな作業が多く、現状のロボットや自動化システムはその判断力を完全には代替できません。結果として栽培管理の質が落ちることがあります。
  • 高い初期投資と維持コスト:ロボット本体、通信・電源インフラ、整備・保守のコストが経営を圧迫し、投資回収が困難になる可能性があります。
  • 適地適機の問題:機械は標準化された条件で最も効果を発揮しますが、日本の水田は地形や水利条件、区画の大きさが多様で、ロボットの性能を十分に生かせないことが多いです。
  • 導入による作業フローの変化と移行コスト:導入初期の作業遅延や運用ルールの整備不足、現場スタッフの再教育により、一時的に生産性が落ちることがあります。
  • 収益構造のミスマッチ:省力化が進んでも、農産物価格や販売ルートが改善されなければ売上に結びつかない場合があります。結果的に面積を拡大するインセンティブが失われます。

現場にとっての示唆――導入時に検討すべきポイント

ロボット導入を検討する農業経営者や営農支援担当が押さえておくべきポイントは以下の通りです。

  • 目的を明確にする:省力化が目的か、収量向上が目的かで選ぶ技術や評価指標が変わります。まずは何を達成したいかを明確にしてください。
  • 段階的・部分導入で効果検証する:全圃場一斉導入ではなく、パイロット区画で運用してROIや収量影響を実証することが重要です。
  • 人と機械の役割分担を設計する:熟練者の判断が必要な工程は人間が担い、明確に自動化で効果の出る工程(自動散布、連続作業、重労働)から導入するハイブリッド戦略が現実的です。
  • 維持・サービス体制を重視する:機械販売から保守・更新・データ解析までを含むサービス(SaaSやレンタル含む)を提供する事業者を選ぶと継続性が高まります。
  • 経営・販売面の整備:生産力を上げたとしても販売先やブランド戦略がないと収益につながりません。技術導入と並行して販売戦略も整備すべきです。

メーカー・スタートアップへの提言

技術提供側にも対応が求められます。現場の実態に即した製品開発とビジネスモデルが不可欠です。

  • 現場変動への適応性を高める:圃場の形状や水利条件、気象変動に強い設計や柔軟な設定を実装することが重要です。
  • 低コスト・サービス重視のモデル:機械売切りではなくリースや従量課金、保守込みのサービスモデルを広げると導入障壁が下がります。
  • ユーザー共創での開発:農家や営農支援者と共同で現場ニーズを早期に取り入れる「共創」モデルの推進が求められます。
  • アグリノウハウの組み込み:単なる自動化ではなく、栽培管理や判断支援を行うソフトウェアの精度向上が鍵になります。

政策・自治体に求められる支援

政策面でも導入支援や環境整備が必要です。

  • 実証・普及支援の強化:公的資金での実証圃場や共同研究支援を拡充し、現場での効果を透明に示すことが重要です。
  • インフラ整備の支援:圃場整備や標準区画化、通信インフラの整備はロボット運用を容易にします。
  • 教育と技能継承の支援:ロボット運用のための人材育成だけでなく、熟練者のノウハウをデジタル化・継承する支援が必要です。

まとめ:ロボットは道具であり、設計次第で価値が変わる

今回の発表は、スマート農業が万能薬ではないことを示しています。ロボットや自動化技術は大きな潜在力を持ちますが、現場の多様性、熟練者のノウハウ、経営の収益性といった要素とどう組み合わせるかで成否が分かれます。技術導入は目的と現場条件を踏まえた慎重な設計と段階的な実装、そしてメーカー・自治体・研究機関と現場の協働が不可欠です。

アグニューでは、現場に根差したアグリテックの利活用を引き続き追いかけ、実務に役立つ情報を提供していきます。導入を検討中の方は、まずはパイロット導入と効果検証から始めることをお勧めします。

出典:Japan Innovation Review(JBpress)ほか、山口亮子『農業ビジネス』の内容を参考に再編集。2021年「農業情報学会」年次大会での発表を基にまとめました。


詳しい記事の内容はこちらから(引用元)

ロボット導入で、なぜ売り上げや作付け面積が減るのか? スマート農業が抱える意外な落とし穴とは | Japan Innovation Review powered by JBpress
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/90032

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